D750 color test 2 (retest)
D750の色再現性に関する追検証
前回、PC(ピクチャーコントロール)を使う限り赤は出ないと結論付けたD750の色再現性。しかしその原因は光源にあり、より理想的な光源、演色性の高い光源であれば状況は改善するのではないか。その可能性を検証します。
これまでは散々だったけど果たして…?
*詳細:D750 color test vs K-5IIs / EOS M2 color test vs D750 & K-5IIs
一連の検証で光源に用いているLED電球、東芝キレイ色LDA9N-D-Gの演色性はカタログスペックでRa90、実測で95という結果もある優れたものです。
*参考:照明器具とその演色性(スペクトグラム) / 佐々木ヴァイオリン製作工房
しかし、その一方で色味の良さを出すため意図的に580nm付近を抑えており、ニュートラルな光源というわけではありません。
*参考:人肌を美しく、花を生き生きと見せるLED照明器具 - 家電Watch
そのため文字通りキレイに撮れはするものの、自然な色ではないとの指摘もあるようです。もしそうであれば色再現性に問題があった(赤が出なかった)のも光源が原因ではないのか。記憶色のCanonに対してNikonは記録色。より理想的な分光分布をもつ演色性の高い光源であればきちんと色が揃うようになっている、のかもしれない。
なるほど確かに演色性が色に与える影響は無視できません。私がキレイ色を使っているのもそれが理由ですからね。しかし演色性はLED電球としては非常に優れてはいるものの、実測結果を見ると410nm付近からはカットされていたりと理想的ななものではないことも明らか。改善の余地はあります。
ではより理想的な光源として何を用いればいいのか。考えた末の結論がこちら、日中の太陽光。これを使います。
電球だ超高演色LEDだフラッシュだ、色々ありますけれど演色性で太陽光に勝るものなんてこの世に存在するわけがないですもんね。紫外線から赤外線まで、可視光線外の波長までバッチリ含まれてます。完璧です。逆に言えばこれで色が出なければ何をやっても出ないということになります。
という訳で3月の午前11時頃、晴れの日で空には少し雲がある程度の状況で撮影を行いました。
検証に用いるのはD750の撮って出しJPEGでPCはNL(ニュートラル)。被写体のマクベスチャート(小さい方)8箇所(DLは確認用)の色相の値と理想値との差異を確認します。
光源は日中の太陽光でWBはマクベスのWBカードでのプリセット。レンズはNikon AF-S NIKKOR 24-120mm f/4G ED VRで絞りはF4.0。
検証時の色空間はAdobeRGBですがこのページに貼り付けてあるものはブラウザでの表示を考慮しsRGBに変換してあります。
1. 光源の演色性は影響するが傾向は変わらず
ではまず1枚目から。室内で光源は左側からのもの。ちなみにNX-D(Capture NX-D)の数値は同時記録したRAWで確認したものです。
数値はこの通り。
次は同じ部屋の反対側で光源は右側からのもの。光の状態が変化するためWBは再取得しています。
数値はこの通り。
先の2枚は窓の反対側での撮影。窓にはレースのカーテンがかかっているし室内で反射した間接光の影響も大きいのでは? との懸念を払拭するため窓際で直射日光が当たる状態でも撮影。もちろんWBも再取得。
数値はこの通り。
窓ガラスの影響は? との懸念を払拭するため窓を開けガラスも無い状態で撮影。当然WBも再取得。
数値はこの通り。
今回の数値一覧。
まぁタイトルの時点でバレバレでしたけどこの通り。傾向はキレイ色と何も変わらずRは盛大に回ってくれました。でっかい方のチャート見るととってもわかりやすい。どこが赤や朱やろこれって感じですよね~。
ただ、その一方で若干ながらBに改善が見えるのはやはり分光分布の差異によるものであるように思えます。Cも安定してる感じですし。
そしてYは相変わらず。ここは絶対って感じでやっぱりこれ基準にしてるっぽいなぁ。
とは言え、RはダメだしGもダメ。Cも安定してはいるけど数値自体はダメとダメダメダメでやっぱりダメ。Nikonは光源の演色性さえ良ければきちんと再現できる…というのはただの希望的観測で現実とは異なるようです。
2. DNG Profile Editorで補正できることも変わらず
そんな感じで相変わらずだったD750の撮って出しJPEG。以前の検証からほぼ同等の結果となるNX-Dによる現像はともかく、ACR(9.1.1)による現像とDNGPE(DNG Profile Editor)での調整を行った場合はどうなのか。これまたタイトルバレしてますけど検証してみます。
4枚目の直射日光下で撮影したJPEGと同時記録したRAWをDNGPEカスタムプロファイルで現像したものがこちら。
どうでしょう、Rが全然違いますよね。ちゃんと赤してます。更にGも改善していて明らかにこちらの方が良いです。
数値がこちら。AS(Adobe Standard)でBがマイナスに転び過ぎるのは何時ものことながらこの時点でも既にPCのNLより良好で、DNGPEのプロファイルを使ったものはBとCを犠牲にした代わりに他は完璧に理想値を出せています。そしてそれはYもです。
つまり、これはD750のRAW自体はYを維持しつつRとGを出すこともできることを意味しており、一連の問題はカラーフィルタやセンサーなどのハードに起因するものではなく、その後のRAW現像処理(PC)に起因するものであること示しているとの推測が成り立ちます。
3. 結論
理想的な光源であってもNikonのPCで赤は出ない。しかしRAW時点での問題ではないため現像方法を変えることで改善は可能。
これまでの測定値一覧。
色とは反射した光。光源に含まれない色(波長)はそもそも見ることはもちろん撮ることもできません。ですから光源の演色性はとても重要で、できるだけ高いものを用いた方が良い。これは間違いではないでしょう。
しかし、太陽光という最高の光源でもダメだった時点で原因はカメラ側にあることは明白。そもそも他社はLED電球の時点で優秀な数値を出しているわけですからね。原因を環境に求めることは誤りで、単純にNikonの色再現性が劣っているという他ありません。
ただその一方で、RAWからはより良い結果を得られるのもまた事実。問題がNikonのカラーフィルタ(ハード)に起因するとの説もあるようですが、少なくともD750では異なるようです。
なぜこのような結果になるのか。気になるのが常に完璧なYです。どちらの光源でも全く動きませんし、NL以外のPCでもほとんどずれませんでした。
Y、つまり黄色というのは非常に目立つ色であり、踏切を始め注意を示す標識などでもお馴染みです。イギリスの救急車が黄色に緑と黄緑のチェックが使われているのは標準比視感度(ピークは555nmの黄緑)を考慮してなんだとか。Nikonも同様にYを再重視した調整を行っている、のかもしれません。
しかしセンサーはRGBの三原色で信号を処理しているわけですから、CMYは加算混合で作り出さねばなりません。そしてYはR+G、つまり大きくずれている色です。
注意を連想させる黄色と並び、血や火に繋がる赤は危険を連想させこれまた目に付きやすい色。YがよくてもRがダメすぎでは片手落ちもいいところです。
ただ、疑問なのはDNGPEであればYとRを両立どころかGまで補正可能なこと。つまり各色域を独立調整できればYを重視しつつもRやGを改善することは可能なはずなのです。にも関わらず、なぜD300の時代からYは素晴らしいのにRはダメダメで朱色になってしまうのか。
まさかとは思いますけど、Nikon社内のPC調整ツールもPCU(Picture Control Utility)同様特定の色域のみ調整することはできないとか…ないですよね?
最後に一つ参考になりそうなデータを。
これは2006年、つまり今から10年前にCanon EOS 30Dで撮影したRAWをACRで現像したもの。カメラキャリブレーションの設定を変えており、左が当時を擬似的に再現した2003/ACR3.4、右が現在の2012/ASです。
どうでしょう、左右で全然違いますよね。そして左のR、何かにとてもよく似ていませんか?
数値で見ても一目瞭然。そうです、D750(Nikon)のR、朱色のRとそっくりなんです。
つまり、Canonなら無条件でRが赤になるというわけではなく、調整(現像)次第ではこのように朱に転んでしまう。それがきちんと赤になるのは、Canon及びAdobeの調整がしっかりしているから。ACRも3.4の時点では転んでしまっていたのがASが追加(恐らく2008年の5.2から)されて以降は改善されました。
そしてこれはNikonのRAWも調整次第であることを示しています。
Rが朱に転ぶか否かは調整次第。つまりCanonの忠実再生に相当するPCを追加しつつ、PCUにPSE(Picture Style Editor)の特定色域調整機能に相当する機能を追加すれば状況は劇的に改善するはずなんです。なぜそれをしてくれないのか。しないのではなく、できないだけなのか。PSE公開から9年も経過しているのにPCUは何も成長していない辺り、後者なのかもしれません。
ある意味Nikonのカメラはフィルム時代と同じ、撮った後の現像は自分でやるものなのかもですね~。まぁメカ部分は間違いなく優秀なわけですから、そう割り切って扱うのがベターな運用方法なのかもしれません。
参考までに、検証で使用したDNG Profileを公開しておきます。以下の記事からどうぞ。
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