EOS R color test vs α7III
レフ機からミラーレスへ - α7III比での色再現性について検証する
- 優秀だがやはりGに癖のあるJPEG
- Adobe Camera Rawでも傾向は変わらず
- 完璧に近いDigital Photo Professional
- ACR Canon用プロファイルの再現性も高い
- ColorChecker Passportとの相性は今ひとつ?
- Adobeプロファイルベースは非常に優秀
- Picture Style EditorはACRを超える自由度
- 結論
2018年10月、Canonのフルサイズミラーレス第一弾としてようやく登場したEOS R。果たして同年3月に発売されベストバイと持て囃されるα7IIIと比較しどうなのか。まずは色再現性について検証してみます。
検証に用いるのはいつもの被写体。セッティングに関しても光源関連以外は以前とほぼ同等です。
光源は今回から新たにSh50Pro-Sを用います。これは前回まで用いてきたLDA9N-D-G同様LED電球ですが、撮影用に設計されたより演色性に優れたものです。光源の変更によって前回までのデータとの連続性が途切れていることにご注意下さい。
Sh50Pro-S & LDA9N-D-G spectrum test
WBはマクベスのWBカードでのプリセット。露出は背景の銀一グレーカード(旧)で取っています。
レンズはEOS RはRF24-105mm F4L IS USMで焦点距離50mm、α7IIIはFE 50mm F2.8 Macroで絞りはどちらもF8.0。ボディのレンズ補正はこれまで同様極力デフォルト設定に準じるものとし、EOS Rは周辺光量とDLO(デジタルレンズオプティマイザ)はon、歪曲補正はoff。α7IIIは歪曲補正のみoffとしています。
シャッターは両機種ともに電子シャッター(サイレント撮影)を用いました。
色空間はAdobeRGB。sRGB設定で撮影、現像した場合とは数値も見た目も大きく異なります。ただしこのページに貼り付けてあるものはブラウザでの表示を考慮しsRGBに変換してあります。一部Flickr等外部にリンクしてあるものにはAdobeRGBのファイルもあるので表示環境にはご注意下さい。
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1. 優秀だがやはりGに癖のあるJPEG
ではまず撮って出しJPEGの各PS(ピクチャースタイル)の値から見ていきます。
やはりCanon機の色再現性は優秀。FF(Faithful:忠実設定)ではGを除けばかなり理想的な値です。Rも356度としっかり「赤」になっており、他のPSでも回り過ぎていないのが好感触。
ただ、Gがプラスに回る傾向は相変わらず。特にFD(Fine detail:ディテール重視)の+25というのは極めて大きく、今までの検証で最大の値かもしれません。Std(Standard:スタンダード)との差異も大きいため、単純に低コントラスト版とは考えない方がよさそうです。
同一環境で取得したα7IIIとの比較。
両機種のStdではR以外α7IIIが優秀。差異が小さく、やはりα7IIIはStdが頭一つ抜けている感があります。
それと比較するとEOS RはGの14度を始め、Mの10度にRの9度と差異が目立つ結果に。ただBとC、そしてYは優秀です。元々CanonにはFFがあるため、Stdではそこまで忠実度が重視されていないのかもしれません。
両機種で最も再現性の高い設定であるFFとNtrl(Neutral:ニュートラル)で比較した場合、Gがプラスに回るEOS Rに対しGとRがプラスに回るα7IIIと言ったところでしょうか。全体で見るとEOS R側の方が差異が小さく、より理想的な値となっています。
なお、α7IIIのGが前回検証時よりもプラスに回っているのは光源変更の影響です。RAWをACRで現像した場合はほとんど変化が無かったのに対し、撮って出しJPEGは+8度程度の変化が生じました。
チャート比較。
Gはやはりα7IIIのStdが最も実物に近く、それ以外は若干の差異を感じます。Rは数値通りEOS RのFFがベスト。逆にEOS RのStdは彩度が高いことも相まって数値以上に朱側に転んでいるような印象。とは言えどれも数値から受ける印象ほどの差異は感じません。
そして色の派手さ、彩度は両機種ともにStdは高く、特にEOS RはR系にそれが目立ちます。それに対しStdのような派手さは無いもののしっかりと色が乗っているEOS RのFFと比べ、α7IIIのNtrlは色が薄く褪色感があります。
全体で見るとベストはG以外優秀なEOS RのFF。それに次ぐR以外優秀なα7IIIのStdと言えそうです。
全体像。
チャートで受けた印象通り、Stdはどちらもしっかりした発色。FF/Ntrlも同様の印象で、FFは忠実設定の名前通り非常にリアルな色味。全体で見ると最も現物に近い印象を受けます。
そしてこの全体像で何よりも注目すべきは背景のグレーバランス。この差異はRAWでも存在し、いくらか検証した限りでは揃えることはできませんでした。なお、実物に近いのはEOS Rです。
個人的な注目ポイントの一つがこのG絡みの再現性。前回のα7III検証時はRAWから調整しても再現することができませんでした。
しかしEOS Rではこの通り、JPEGの時点でかなりリアルな色味に。チャートのG単色ではα7IIIのStdの方が数値的に優れているものの、こうして複合的に色が重なった部分ではEOS Rの方が実物に近いのは非常に興味深い結果です。
ただ完全にニュートラルかと言えばそうではなく、全体的に薄っすらと蛍光灯のグリーンスパイクのような緑被り感がある印象。色相が回っている件と合わせて補正の必要性を感じます。
なお今回のGが回る現象、特にFDで非常に大きく回る原因がα7III同様光源にあるのではないかとの懸念から、後日EOS Rのデータ再取得を行いました。
再取得時の光源は11月初旬14時頃の太陽光。屋内レースのカーテン(紫外線カット効果あり)越しで分光分布は以下の通り。
*測定方法等に関しては Sh50Pro-S & LDA9N-D-G spectrum test 参照
紫外線カット効果の影響で直射に比べ400nm付近の落ち込みが大きくなっているものの、人工光源とは比較にならない分布。撮影用として実質ベストな理想的光源です。
その太陽光で再取得した値とSh50Pro-Sで取得した値との差異。
FFのMで最大4度の差異が生じているものの、それに続く3度の差異が3箇所で生じている以外は全て2度以下。全体で見れば1度が最も多く、0のところも。
1度程度の差異は同一光源でも多少輝度が変化するだけで生じます。そして再取得時は雲の影響でStdからFFまでの間に僅かながらも輝度差が。それらを考慮すると、別光源でなおかつ輝度も完全一致していない状況でこの程度に収まっているのであれば、一部のM以外は誤差の範疇と判断して問題ないでしょう。
そしてこの理想的光源での再取得値からもGが回ることが再確認できました。また、DPR(DPReview)などで公開されているEOS RのサンプルRAWをDPPで現像した場合も同様の傾向が再現されることを確認。よってSh50Pro-Sでの取得値は妥当なものであると判断できます。
またSh50Pro-SがLDA9N-D-Gよりも優れた演色性を有し、より太陽光に近い光源であることも確認できました。
2. Adobe Camera Rawでも傾向は変わらず
//190407
ACR11.2以降では異常に高く認識されていたWB値が修正されました。
しかしそれに伴い色再現にも変化が生じています。
詳細については以下をご参照下さい。
EOS R color test - after ACR 11.2
//
次にACR(Adobe Camera Raw 11.0)の値を見ていきます。
ACRは2018年4月リリースの10.3からデフォルトのプロファイルがAdobe Standard(ASD)からAdobe Color(Acol)に変更されました。そのため今回ASDのデータはあくまで参考として取得しています。
やはりGがプラスに回るEOS R。記事としてはまとめませんでしたが、以前EOS M5で行った検証でも同様の傾向がありました。これがオンチップADC化以降のCanonセンサーの癖なのかもしれません。
対してBのマイナスが大きいα7III。この傾向はα7IIIに限らず過去のSONY製センサー搭載機種でも見て取れました。Cもその影響を受けていると考えられます。
それ以外だとRとCはEOS Rが優れ、Mはα7III。Yはどっこいどっこいという結果に。
チャート比較。sRGB変換前のAdobeRGBファイルはこちら。
やはり数値通りに最も差異が見て取れるのはB(及びC)とG…なのですが、残念ながらB/Cの差異がsRGB化で圧縮されてしまい、ここに貼り付けてある画像ではあまり変わらなくなってしまっています。本来の差異を確認したい場合は上記リンクから変換前のファイルを取得して下さい。機種間の差異だけでなく、特にCはsRGB化で劇的に変化していることが確認できるはずです。
Gの差異はsRGB化後も残っており、機種間で明確に異なることがわかります。
そして前回から気になっているのがこのpB(Gの上にあるpurplish blue)。α7IIIはどうにも紫感が弱く、青っぽい感じに。逆にEOS Rは中々にリアルな色味で補正は最小限で済みそうな印象です。
とは言えどちらも同じACRで現像しただけのことはあり、同一プロファイルであれば差異の大きな箇所を除きそれなりの類似性が見て取れます。他社他機種間であることを考慮すれば十分な一貫性が保てていると評価できるでしょう。
全体像。sRGB変換前のAdobeRGBファイルはこちら。
こうして引きで見てもそこまで変わらない…かと思いきや、意外と差異がある感じになりました。
JPEGでも指摘したG絡みは明らかにEOS Rが優秀。α7IIIは何度調整しても結局この色に辿り着くことができませんでした。
逆にY絡みは僅かにα7IIIの方がニュートラル。EOS Rは若干黄色黄色し過ぎている感があります。
そしてグレーバランス。これはJPEG同様、EOS Rの方がリアルでニュートラル。これが調整した場合でも最後まで効いてくる感じです。
3. 完璧に近いDigital Photo Professional
次にDPP(Digital Photo Professional)と撮って出しJPEGの差異を確認します。
1箇所だけ2度がある以外は全て1度以下。0の箇所が最も多く、これは以前行ったD750検証時のNX-Dに匹敵します。カメラボディとPCという異なるデバイスで出力していることを考慮すると、ほぼ完璧と言っても過言ではないでしょう。最新機種だけにアプリとの相性も良いのかもしれません。
チャート比較。左半分がJPEG、右半分がDPPになっています。
率直に言ってどこに継ぎ目があるのかほとんどわかりません。差異があるように見えても目の錯覚ではないか、そもそも全てJPEGかDPPではないのかと思ってしまうほど。それほどに色味、コントラストとも似通っています。
ですが実際に中央からJPEG/DPPに分かれており、数値上は差異が存在します。そしてpBのように一部の箇所では極僅かながらも中央に継ぎ目が認識できます。
全体像。
これを見て一瞬で差異を見抜ける人がいるのか疑問なレベル。pBに関してもこうして並べてしまえばもう判別は不可能。やはり作業ミスで左右どちらも同じ画像になっているように見えてしまいます。
もし見抜けるとしたらこの背景グレーバランス。このように極僅かながらも差異が存在し、DPP側の方がYに転んでいます。これを知覚できれば左右で異なることを判別できるでしょう。
ただ、果たしてそれに意味があるのか。こうして抜粋したものを並べたり、レイヤー表示したものを切り替えれば判別できても、全体像のような配列では錯覚と認識してしまう可能性が高そうです。
4. ACR Canon用プロファイルの再現性も高い
//190407
ACR11.2以降ではCanon用プロファイル(カメラマッチング)もv2に更新され、以前の無印プリセットは選択できなくなりました。
そのため本稿の内容はあくまでACR11.0/Lr8.0時点でのものとなります。
詳細については以下をご参照下さい。
EOS R color test - after ACR 11.2
//
次にACRのCanon用カメラプロファイルと撮って出しJPEGの差異を確認します。なお、ACRにFD相当のプロファイルは存在しません。
これまた素晴らしい値であり、非純正であることを考慮すると驚異的。JPEGとの差異はDPPに次ぐもので、ACRとしては以前のD750を超え過去最高の類似性となりました。
チャート比較。左半分がJPEG、右半分がACR。
色相だけでなく彩度やコントラストにも差異があるため、さすがにDPPのような目の錯覚レベルということはなく、中央に継ぎ目がはっきりと見て取れます。
しかし非純正としては非常に優秀なことは間違いなく、前回のα7III用とは比較にならない類似性です。
全体像。
ACR側の方が高コントラストで中間点も明るく、背景のグレーバランスにも変化があるためDPPよりは見分けやすい、と言ったところでしょうか。重ねて切り替えるとやはりACRは「Adobeらしい」感じです。
ただ繰り返しになりますが、ACRは純正アプリではありません。それでこの再現性というのは十分以上なレベルに達していると評価できるでしょう。
DPP/JPEG/ACRを並べたもの。参考用にどうぞ。色空間はAdobeRGBのままなのでご注意下さい。
5. ColorChecker Passportとの相性は今ひとつ?
//190407
ACR11.2以降では結果が異なります。
詳細については以下をご参照下さい。
EOS R color test - after ACR 11.2
//
次はColorChecker Passport(CCP)を用いてACR用のプロファイルを作成します。
*参考:ColorChecker Passport - Camera & Image Calibration: X-Rite Photo & Video
EOS Rは明らかに過補正な状態。確かに朱側に転んでいたRが赤になってはいるものの、暴れが大きくこれだと正直使わない方が良いのでは…と感じてしまう値になりました。
それに対し、α7IIIは前回とは打って変わってRも理想値通りになったりと状況が改善。これは光源変更の影響か、それともたまたまなのか。CCPは同一機種でも状況により結果が変化するため断定はできません。しかし相性が悪そうに見えた機種でも、可能であれば再取得はしてみる価値はあると言えそうです。
チャート比較。中段以下は左半分がACRデフォルトプロファイル、右半分がCCP。
やはり機種が異なってもCCPの結果には統一感があり、類似性が見て取れます。機種間の差異を埋めるツールとしては有効でしょう。
しかし色再現の面から見た場合は必ずしも理想的とは言い難く、特にEOS Rの今回の結果は残念なもの。デフォルトのAcolやASDではいい感じの再現性を見せてくれたpBも台無しになってしまいました。機種間の差異を埋めるのが目的であればともかく、そうでないなら今回のプロファイルは使う価値があるのか微妙です。
全体像。
デフォルトプロファイルよりもG絡みの差異が小さくなっていたりと統一感は出ています。
しかし、前述の通り色再現性という面では微妙な結果。傾向的には典型的CCP感はあるので好みであれば…と言ったところでしょう。
6. Adobeプロファイルベースは非常に優秀
//190407
ACR11.2以降では結果が異なります。
詳細については以下をご参照下さい。
EOS R color test - after ACR 11.2
//
次にACRでカスタムプロファイルを作成します。
α7IIIはデフォルトのAcolではコントラストが高く、ハイライト側のトーンが飛びやすい傾向があります。その対策の一環として最近はAdobe Neutral(ANL)をベースとするようになっていました。そのため今回はAcolだけでなくANLベース版も作成します。
なお、今回から更新が止まっており新プロファイル未対応のDNG Profile Editor(DNGPE)は使用しません。
EOS Rは完璧な値です。容易にこの理想値まで持って行くことが可能でした。この傾向は以前EOS M5のRAWでも確認しており、最近のCanon機とACRの相性の良さを感じさせます。
α7IIIはやはり前回同様BとCを両立できず、Cを捨ててB側を基準に仕上げることに。これはAcolでもANLでも変わりません。
チャート比較。まずはAcol版から。
sRGB変換前のAdobeRGBファイルはこちら。
数値通り、両機種ともに今までで最もリアルな仕上がりです。機種間の類似性もCCP以上。妥協したα7IIIのC以外はベストな結果となりました。
続いてANL版。
sRGB変換前のAdobeRGBファイルはこちら。
こちらもAcol版同様の仕上がりに。ただ、α7IIIのpBなどはもう少し調整した方が良さそうです。
最後はそれぞれのAcol版とANL版の比較。
sRGB変換前のAdobeRGBファイルはこちら。
基本的にANL版の方がコントラストが低く、特にハイライト側を抑えた仕上がり。これはトーンカーブの調整次第なのでいくらでも変更可能です。
ただ、α7IIIはハイライト側の関係でANL版の方が好ましい場合が多いのに対し、EOS RはAcol版で十分な印象も。どちらが向いているかの判断にはサンプルが足りておらず、もうしばらく検証を続ける必要がありそうです。
色味に関しては基本的にAcol版とANL版で同じ傾向。しかし前述のpBなど一部で差異が生じており、どちらかと言えばAcol版の方がニュートラルな傾向に。調整「慣れ」の問題もあってか、ANL版の色再現性については改善の余地を残す結果となりました。
全体像。
今回は色相以外あまり強い補正はかけなかったこともあり、引きで見てもはっきりわかるほどベースになったAcolとの差異はありません。
細部を見ればわかりやすいRははっきりと、しかしそれ以外は重ねて比較でもしないと判別が難しい感じですね。
今回EOS Rは手にして間もない上、初のプロファイル作成ということもありまだまだ練度不足。既に23回も調整を繰り返してきたα7IIIと比べて完成度の低さは否めません。
しかしここで重要なのは、そのような未熟な状態でも容易に理想値を実現できたということです。それはα7IIIでの経験が活かされたという面もあるものの、最大の理由はEOS RのRAWが元から理想値に近かったから。つまり元が良く癖も素直だったため、作業も複雑化せず簡単に済ませることができました。
それに対し、α7IIIはこれだけ調整を繰り返しても未だ癖を補正し切れずにいます。この辺りに素材としての素性の良さに差異があるということなのかもしれません。
7. Picture Style EditorはACRを超える自由度
最後にPicture Style Editor(PSE)を使用しFFベースのカスタムピクチャースタイルを作成します。これはDNGPE以上のカスタマイズを可能とするツールであり、PS搭載機種であれば作成したPSをボディに登録。撮って出しJPEGにも反映させることが可能です。
*参考
:キヤノン:一眼レフカメラ/ミラーレスカメラ EOS|Picture Style Editor
:EOS M2 color test vs D750 & K-5IIs
EOS M2での検証時同様、六軸色調整(Six Color-Axes)、特定色調整(Specific Colors)共に容易に理想値を実現できました。やはり色相環で調整範囲を自在に指定できる仕様は強く、ACRでの8軸HSL調整よりも自由度は高いと考えられます。
チャート比較。
sRGB変換前のAdobeRGBファイルはこちら。
どこを見ても数値通りに極めて優秀。六軸色調整と特定色調整の差異は僅かに存在し、Oは六軸色、pBやP(purple)は特定色の方が実物に近い感じでしょうか。
ちなみにこれもEOS M2時同様、推奨されている六軸色→特定色の順に調整を行うより、どちらか片方で完結した方が良い結果となる印象。FFだと元から優秀なためかもしれません。
全体像。
さすがに引きではっきりわかるほど劇的な変化はありません。しかし元から極めて優秀だったFFが、微調整によってほぼ完璧なレベルにまで仕上がりました。
PSEでカスタムPSを作る上での注意点として、色空間の設定があります。
上の画像は左がAdobeRGB用に調整したPSを正しくAdobeRGBで使用したもの。右は誤ってsRGBで使用してしまった場合の失敗例。このように調整時の色空間と異なる色空間設定で用いた場合、意図した色味とは大きく異なる結果になってしまいます。それを避けるためにはまず最初にどちらの色空間で使用するPSなのかを定め、作成から最終的な利用までの色空間を統一させる必要性があります。
なお、ACRではそういった影響はありません。上のチャートは左半分がAdobeRGBで現像後Ps(Photoshop)でプロファイル変換したもので、右半分は最初からsRGBで現像したもの。一部輝度が1%異なる箇所があったりはするものの、もはや見分けが付くレベルではなく実質的な差異はゼロです。
また、Lr(Lightroom)の作業用色空間はProPhotoRGBから変更できない仕様(2018年11月時点)なため、考慮する必要はありません。
そしてもう一つが機種間の差異です。
この画像は左がEOS M2~3用に使っていたPSをEOS RのRAWに適用したもの。右がEOS M5用に再作成したPSをEOS RのRAWに適用したもの。
ご覧の通り、左は完全に破綻しています。しかし、EOS M3までは右の彩度をもう少し上げた程度の結果でした。つまりこれは、同じPSでも機種によって結果が異なるということを示しています。
これは極端な例であり、その原因はセンサーの世代が変わった(オンチップADC化前後)ことに起因すると考えられます。ただ、センサーが同じでも処理するエンジン(DIGIC)が異なれば結果も影響を受ける可能性は否定できません。
基本的にカスタムPSはその機種固有のものであると考え、異なる機種に用いる場合は機種間の差異を把握し、必要に応じてそれを補正する必要があります。
このように多少注意すべき点はあるものの、PSEは他社には無いCanonだけの強みであり、EOSを使う大きな理由の一つとも言えるツールです。対応機種をお持ちであれば、活用しない手はありません。
8. 結論
デフォルトで優秀なPS。さらにPSEによる自在な調整で他社を寄せ付けない自由度。RAWから現像した場合も優秀と全方位に完璧な布陣。やはり色に関してCanonの強さは絶対的で、ここまでくると素直に称賛するよりほかない。Excellent!!
過去の測定値一覧
撮って出しでもRAWでもGのプラス傾向(これは色空間も関係している)はあるものの、素性が良いため非常に調整しやすく素材として最適。
PSEとDPPを使えば撮って出しの調整もPC内でほぼ完結することが可能。他社のように設定を追い込むため何度も試写と確認を繰り返す必要もなく、圧倒的な時間短縮と精度の高い調整を可能としている。そしてその調整内容はPCでのRAW現像に相当するものであり、作り込んだプリセットを撮って出しに反映させることが可能。
これがどれほど凄いことなのか。多少なりともRAW現像や撮って出しの追い込みを経験していれば理解できると思います。ここまでできるのはCanonだけです。
α7IIIもStdは悪くありません。Rはより赤を表現できるようになり、全体の色乗りも改善され前世代までのコンデジ感は随分と改善されました。
しかし、これがベストでもう伸び代がないのが問題なのです。以前から指摘している通り、αシリーズで調整可能なのはコントラスト、彩度、シャープのたった3項目を±3だけ。つまりまともな調整ができる余地など皆無。CanonのPSEどころか他のどのメーカーにも大幅に劣る仕様が2018年現在も続いています。
デフォルトの色味に100%満足できる場合は問題ないでしょう。しかし僅かでも不満が生じた場合、それを補う手段がない。CS(クリエイティブスタイル)は13種とずば抜けて多いが、どれも汎用性はStd以下で使いづらい。結果、RAW頼みにならざるを得ないのが実情です。そしてRAW現像ならば完璧かと言えばそうでもなく、前述の通り相当追い込んでもEOS Rには及びません。
またこれは搭載されている裏面CMOSセンサーの癖なのか、ハイライト側が飛びやすい傾向があったりと、高感度SNRと引き換えに失ったものがある模様。
毛皮のハイライト。こういった箇所があっさり飛びやすい。
低感度に限れば、色再現性と合わせて前機種α7IIの方が優れているというのが私の印象です。
素手前提のタッチ操作系に小さく少ないボタン類。現場での実用性は…
もちろん、これはあくまで「色」に限った上の評価です。カメラとしての使いやすさは前機種から格段に進歩しており、撮りやすさという意味では間違いなくα7III。むしろ色々と操作系に難点のあるEOS Rよりも、3代目α7の方が優れた面もあるくらい。
ただ、色に限ればEOS Rとできることに差がありすぎるのはもちろん、前世代の方が良かったのでは?というのが率直な印象です。
話をEOS Rに戻しましょう。このカメラの「色」は素晴らしく、それを再重視する人には最適な選択肢の一つと言えます。
では「色」を求めるならば誰にでも推奨されるべきカメラなのかと言えば、別にそうではありません。
なぜなら今回高く評価した色関連の性能。これは別にEOS R固有のものではなく、Canonの「EOSシステム」の能力だからです。
各種Canonのコメントやサンプルデータから見ても、EOS Rのセンサーは5D4(EOS 5D mk4)のバリエーションモデル。画質も実質同等で、特に進化したわけではありません。
そして色再現性及び自由度。これはセンサーのオンチップADC化前後で隔たりこそあるものの、別にフルサイズ機種に限った話ではありません。EOSであれば全機種その機能を使用可能であり、それこそEOS Kiss M(EOS M50)でも今回とほぼ同等の結果を出すことが可能と考えられます。実際、DPRにあるサンプルRAWではほとんど差異が存在しませんでした。
つまり最近のEOS機ユーザーが「色」を目当てに機種変更する価値は皆無。実用性の低い操作系や全く揃っていないRFレンズといった、多くのデメリットと引き換えに得られるメリットが見当たりません。
どうしても今すぐミラーレス化したいということでなければ、もう少しRFマウントシステムが成熟するのを待った方が無難でしょう。
ではどのようなケースなら向いているかとなれば、他社フルサイズ機を使用中で現状の「色」に不満のあるユーザー。なおかつ既にミラーレスをメインとしている、もしくは今からレフ機メインは避けたいという層にはベストマッチ。色々と問題点はあれど、「色」に関してはEOSシステムの力を享受することができるでしょう。
これを使って色に不満があるなら自分の腕が未熟なだけ。そう考えられるだけのポテンシャルがEOSシステム、そしてこのEOS Rにもあります。もし「色」の迷宮で迷っているのであれば、一考の価値ありです。目指す答えに近付くことができる…かもしれません。
参考までに、今回の検証で使用したプロファイルを公開しておきます。以下の記事からどうぞ。
//181216
項目2にACR11.1/Lr8.1で発生している問題について追記
//190220
項目2、4にACR11.1/Lr8.1での変更点について追記
//190327
項目5の画像に誤りがあったため差し替え
//190407
ACR11.2以降について追記
関連記事
Custom Lens Dust Cap RF
EOS R color test - after ACR 11.2
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