snowfallのメモ帳

趣味に関することなどを適当に綴る備忘録兼用のメモ帳

Z7II review - color test vs Z5 & EOS R5

FからZへ - 色再現性とZに対する所感

  1. Zでも赤は出ないが機種間の差異は極小
  2. 色相の変化は小さいNikon
  3. Z同士でも差異のあるAdobe Camera Raw
  4. 高速で再現度も完璧なNX Studio
  5. 優秀だが明確な差異の存在するZ7II/Z5用プロファイル
  6. 素直だがCだけ課題が残ったAdobeプロファイルベース
  7. あと一歩が足りないPicture Control Utility 2
  8. モアレ・偽色耐性は概ねZ7II=EOS R5
  9. テスター気分を味わえる動物AF
  10. 勝負にならない連射力
  11. 使えばわかる?劣化したユーザビリティ
  12. Nikonは記録色、Canonは記憶色の矛盾
  13. Zレンズは他社比でも神レンズ?
  14. 結論

2020年12月、Z7の後継機として登場したZ7II。同年8月に発売されたエントリー機であるZ5、そして同年7月に発売されたEOS R5と比較してどうなのか。本稿では色再現性についていつもの検証を行いつつ、NikonのZに対する率直な印象を述べる。
なお、かなり否定的な内容になっていることをご留意頂きたい。

 

検証に用いるのはいつもの被写体。セッティングに関してもいつもとほぼ同等。

光源はSh50Pro-S。WBはマクベスのWBカードでのプリセット。露出は背景の銀一グレーカード(旧)で取得。

 Sh50Pro-S & LDA9N-D-G spectrum test

レンズはZ7IIとZ5はNIKKOR Z 24-120mm f/4 S、EOS R5はRF24-105mm F4L IS USMで焦点距離50mm、絞りはF8.0。ボディのレンズ補正はこれまで同様極力デフォルト設定に準じるものとし、Zではヴィネットコントロール標準、自動ゆがみ補正(当レンズはoff選択不可)と回折補正はon、R5の周辺光量とDLO(デジタルレンズオプティマイザ)は標準、歪曲補正はoff。各機種のファームウェアは本稿執筆時の最新版である1.4(Z7II)、1.2(Z5)、1.5.2(R5)です。

R5は電子シャッターを用いるとDレンジが低下することが判明しているため、今回は全機種デフォルトの電子先幕を用いています。

参考:Photographic Dynamic Range versus ISO Setting

なお、Z7IIの最低常用感度はISO64ですが、当方の検証環境では低速SSによる微ブレを拾ってしまうことが確認されたため、今回は全機種ISO100でのデータを使用しました。確認した限り、ISO64と色的な面での有意差は存在しません。

色空間はAdobeRGB。sRGB設定で撮影、現像した場合とは数値も見た目も大きく異なります。ただしこのページに貼り付けてあるものはブラウザでの表示を考慮しsRGBに変換してあります。一部外部にリンクしてあるものにはAdobeRGBのファイルもあるので表示環境にはご注意下さい。

 *関連記事

  EOS R5 color test - after ACR 14.2
  EOS R5 review - color test vs EOS R6
  EOS R6 review - color test vs EOS R
  EOS R color test - after ACR 11.2
  EOS R color test vs α7III
  α7III color test vs α7II
  α7II color test vs D750 & EOS M2 & K-5IIs
  D750 color test 2 (retest)
  EOS M2 color test vs D750 & K-5IIs
  D750 color test vs K-5IIs

 

1. Zでも赤は出ないが機種感の差異は極小

ではまずZ両機種の撮って出しJPEGから見ていきます。

 

共にRの値が最もプラスに転んでおり、これはどのピクチャーコントロール(PC)でも共通。これは6年前にD750で検証した時と非常に近い値であり、ある種の一貫性が見て取れます。Yのズレが最も小さくなっているのもそっくり。

そしてもう一つ見えてくるのが、Z7IIとZ5間の差異が極めて小さいということです。

 

理想値との差異をグラフ化したもの。

なんと両機種の差異は最大でもたったの2度。しかもほとんどが1度以内に収まっており、0の箇所も多い。これはセンサーから全く異なる機種であることを考慮すると、驚異的な値と言わざるを得ません。

 

チャート比較。sRGB変換前のAdobeRGBファイルはこちら

pB(Gの上にあるpurplish blue)のように差異を視認しやすいところは存在するものの、それもあくまで一部。上下のズレを隠せばもうほとんどわからないところばかりです。

 

全体像。

これで見分けがつく人はどれだけいるのか。背景グレーに僅かな癖(Z7IIのG被り傾向)が出ているため、それを知っていれば判別できる可能性はあるでしょうが、私も必ず全問正解できる自信はありません。

実写においてZ5とZ7IIの色味には差異を感じていたため、個人的にこの結果は意外なものでした。よく言われているセンサーがZ5は表面(FSI)、Z7IIは裏面(BSI)を用いていることに起因するものかと漠然と思っていたためです。

しかし今回の検証結果から、WBが大きな影響を与えてることが確認できました。機種感の差異を縮めたい場合、WBを見直すことが近道になりそうです。

もちろんそれで差異がゼロになることはありませんが、この通りかなりのレベルまで近づけることが可能です。

 

2. 色相の変化は小さいNikon

次にR5との差異を見ていきます。まずはJPEGから。

 

Z7IIは常にRが最もプラスに転んでいるのに対し、R5はピクチャースタイル(PS)毎に異なり一貫性がありません。そしてその傾向は他の箇所も同様です。

 

こうしてグラフ化すると一目瞭然。Zは両機共にどのPCでも似た傾向を示しているのに対し、R5はPS毎に全く異なることがわかります。

対してコントラストはこの通り。
PC毎に調整されているZ両機に対し、R5は実質2種。非常にシンプルです。

つまりNikonは色相には一貫性を持たせたままコントラストで調整。逆にCanonは色相で大きく調整しコントラストはほぼ一定という、真逆のアプローチを行っていると推察できます。

 

チャート比較。sRGB変換前のAdobeRGBファイルはこちら

こうして見ると、確かにZ両機はコントラストこそ違えど色味の傾向はどれも同じ。対してR5はコントラストは似通っているものの色味はバラバラなのがよく見て取れます。

これはどちらのアプローチが正解というものではなく、各メーカー毎の哲学に基づくもの、個性と評価すべきものでしょう。

ただし、表現の幅が広いのは言うまでもなくCanon方式の方。しかもここから更にPicture Style Editor(PSE)によるRAW現像ソフト並の調整が可能なため、比較になりません(後述)。

 

全体像。

PCとPSを揃えることはできないため厳密な比較ではありませんが、こうした実写を通じて感じるのが描写の違い。どのPCでもZ7IIはとても色乗りがよく、濃厚なタッチという印象。かつては塗り絵と言えば良くも悪くもCanonの代名詞だったのに、今ではむしろNikonの方がそう評するに相応しいのかもしれない。そう思わせてくれる描写はとても興味深い。これと比較すると、R5はむしろあっさりめな仕上げと感じてしまいます。

このこってりしたタッチは好みが分かれるところかもしれませんが、個人的には好きな描写です。わざわざ大仰な一眼持ち出したのに、ペラペラでガサガサな古コンデジみたいな安っぽい描写だと萎えちゃいますからね。「こういうのでいいんだよ」と思わせてくれるリッチな描写は一眼を用いる意義を見出せるもので、好ましく感じます。

ただ、それが忠実な色であるかはまた別問題であることは理解する必要があります。

 

3. Z同士でも差異のあるAdobe Camera Raw

次にACR(Adobe Camera Raw 14.3)の値を見ていきます。

確認するのはデフォルトプロファイルであるAdobe Color(Acol)とAdobe Neutral(ANL)、そして参考として旧デフォルトプロファイルであるAdobe Standard(ASD)です。

 

興味深いのは、Z両機種よりもむしろZ7IIとEOS R5の方が類似性が高いこと。統一感のあったJPEGとは全く異なる結果です。

 

チャート比較。

実際にチャートで見てもこの通り。確かに右の方が近い印象を受けます。これはNikonとしての色ではなく、Adobeとしての色を優先した結果と考えるのが妥当でしょう。純正ソフトではないのですから、当然と言えば当然な話です。

 

全体像。

チャートならともかく、こうして引きで見る分にはほとんど区別がつかないレベル。Adobeのプロファイルとしての統一性きちんと確保されている印象です。

ただ、最近ACRはプロファイルの内容をサイレントアップデートしてくることがあり、バージョンを上げたら色が変わってしまったということが発生しています(特にEOS)。しかもそれらは不可逆で過去の現像を再現できない場合が多く、長期運用していく上での信頼性に欠ける面が目立つようになりました。ユーザーは十分に注意を払う必要があります。

 *参考: 

  EOS R color test - after ACR 11.2
  EOS R5 color test - after ACR 14.2

 

4. 高速で再現度も完璧なNX Studio

次はNX Studioと撮って出しJPEGの差異を確認します。これは旧ViewNX-iと旧Capture NX-Dが統合されたNikon純正のソフトウェアです。

 

両機種共にどちらも1度以内。これはCanonのDPP(Digital Photo Professional)に匹敵するレベルであり、完璧な値です。

 

SD、NL、FTでチャート比較。

これはもう判別不能でしょう。ズレがなければ継ぎ目すら認識できません。

 

そしてNX Studioの凄まじいところは、ベタ塗りのチャート部分以外の再現度もかなり高いということです。これは500%に拡大(ニアレストネイバー)したもの。ピクセル単位で見ても違和感がほとんどないレベルの描写です。

 

こちらはEOS R5とDPP。こちらも十分以上な再現度を有しているものの、ピクセル単位で見るとDPPの方が高コントラストで分離が明瞭。JPEGと比べ、一つ一つの点がしっかりと立っている感じに変化していることがわかります。

 

これがZ7II固有であるかを確認するため、Z5でも比較を実施。その結果同様の傾向を確認できました。

 

全体像。

チャート時点でわかっていたことではありますが、当然ここまで再現度が高いと引きでも全くわかりません。仮に識別できたとしても機種間の差異だけで、JPEGとRAWは不可能でしょう。

 

Photoshopで差の絶対値を用いて差分を視覚化したもの。100%の再現度を持つのはR5のボディ内RAW現像のみ。

なお、Z7II(恐らくNikon機全て)はボディ内RAW現像で撮影時の撮って出しを完全再現できません(メーカー確認済)。このように僅かではあるものの差異が生じます。同様の再現不可はPanasonicLUMIX DC-S5でも確認しており(メーカー確認済)、むしろ完全再現可能なCanonのEOSが特殊なのかもしれません。

逆に言えばNikonではボディ内RAW現像に固執する必要性は低く、NX Studioをより積極的に用いるのがよいのかもしれません。

 

そして素晴らしいのは再現度だけではありません。処理速度も高速で、Z7IIのRAWを現在の環境だと約2.7秒で現像することが可能です。さすがに有償のACRには及ばないとは言え、十分以上に高速と評すことができるでしょう。

 

DPPは2014年にv4.xがリリースされて以降、対応機種等の追加はあっても処理速度に関しては目立った改善が見られず、現代のPCをもってしても重いアプリ。それでも純正アプリとして最重要な再現度を非常に高いレベルで有しているため、十分評価に値すると認識しておりました。

しかしこのNX Studioは同等以上の再現度に加え、8倍近い処理速度まで有している。最早文句の付け所がありません。完璧、完璧です。素晴らしい!

 

5. 優秀だが明確な差異の存在するZ7II/Z5用プロファイル

次にACRのZ7IIとZ5用プロファイル(カメラマッチング)と撮って出しJPEGの差異を見ていきます。

 

差異は最大でも2度以内。これはNX Studioに次ぐレベルであり、非純正であることを考慮すると非常に優秀と評価できるでしょう。

ただ、当然これだけでは再現度の全てを判断することはできません。

 

SD、NL、FTでチャート比較。

この通り差異は明確。NX Studioとは異なり、ほとんどのところで継ぎ目がはっきりと認識できます。

なぜ色相(H)だけ見ればNX Studioに匹敵する再現度だったにも関わらず、このような結果になったのか。それは彩度(S)や輝度(B)にも差異が存在するためです。

 

そして描写(塗り)もこの通り。ACR側はいかにも”いつものAdobe”といったところでしょうか。前述のHSBの差異と相まってそれぞれ明確な差異が生じます。

 

全体像。

さすがにここまで引けば目立たなくなるものの、やはり描写の差異などはそれなりに残りますね。

ただ、そもそもACRはサードパーティ製アプリであって、カメラマッチングはあくまで互換品。それを考慮すれば、十分以上の再現度と評価できます。

元々RAW現像ソフトなわけですから、ここから調整していくことが大前提。初期状態でこの程度の差異が存在しても、実用上問題になる可能性は低いでしょう。

 

6. 素直だがCだけ課題が残ったAdobeプロファイルベース

次にACRでAcolとANLをベースに2種類のカスタムプロファイルを作成します。

 

両機種共に素直ではあるものの、Cだけは簡単ではない印象。ここはあえて無理せず放置する方向で仕上げました。

 

チャート比較。sRGB変換前のAdobeRGBファイルはこちら

BやpBにありがちな違和感も補正。そしてあからさまに朱だったRもRらしい色味になりました。

Cも違和感が無くもないものの、それなりに無難なレベルに。総じて見れば悪くはないでしょう。

 

全体像。

さすがに引きだと差異も目立たなくはなるものの、はっきり異なるチャート部分などはこれでも見分けがつきますね。

最近のCanon機はACRとの相性問題的なものが目立ち、アップデートの度に疑心暗鬼にならざるを得ない状況でした。しかしNikon、少なくともこの2機種に関してはそのような心配はせずに済みそうです。

ただこれを言ってしまうと元も子もないかもしれませんが、両機種共にプロファイル(カメラマッチング)がありますので、あえてACRデフォルトプロファイルをベースにする理由は希薄かもしれません。毎回やっていることなので、一応参考にということで。

 

7. あと一歩が足りないPicture Control Utility 2

次にPicture Control Utility 2(PCU)を見ていきます。

 

このPCUはその名の通り、ピクチャーコントロールをカメラボディではなくPC(パソコン)上で調整可能。しかもカメラボディではできない独自のカスタムトーンカーブを作成可能という、上位互換ツールでもあります。

これは多くの時間を費やし実機の背面ボタンをポチポチしながら何度も何度も撮影もしくはボディ内RAW現像→PC上で確認という苦行を強いられるメーカーとは隔世の感のあるツールであり、これを2007年から提供できていることは大いに評価されるべき点でしょう。

さらに「アプリで使う」ボタンからのプレビュー画像でのNX Studio起動や、新規追加したピクチャーコントロールは即時NX Studioでも使用可能と連携面も極めて優秀。NX Studioの高い再現度や高速な処理速度と相まって、PC上でピクチャーコントロールの調整→確認の作業が容易に行えるようになっています。

この連携の優秀さは同種のツールを提供しているCanon以上。より高い作業効率をもたらしてくれる素晴らしい仕様です。

 

しかしトーンカーブは独自カスタム可能な一方、彩度と色相はカメラボディ同様の調整しかできないという最小限の仕様。特に色相は領域指定不可で全域が回転してしまうため、動いて欲しくない色まで転んでしまう。これでは使用できるケースは限られ、実用性は極めて低いと言わざるを得ません。

 

Canonの同種ツールであるPicture Style Editor(PSE)のツールパレット。

それに対しPSEではPCUと同等の調整が可能であることに加え、指定領域のみのHSL(色相彩度輝度)を調整することが可能。特に特定色タブでは調整ポイントと範囲を任意に指定可能と、極めて高い自由度を有しています。

例えばRだけ色相を回したい、Bだけ彩度を上げたい、Gだけ輝度を下げたいといった部分調整が可能なわけです。

  

これはNX StudioならLCHエディター、ACRならカラーミキサー、DPPなら色調整パレットに相当する機能。調整ポイントを自在に変更できるという意味ではACRやDPP以上、NX Studioに匹敵する自由度と言えるでしょう。

このRAW現像ソフトに匹敵する色の自由度と、それをカメラボディに登録し撮って出しJPEG(ボディ内RAW現像)に反映できること。これはCanonだけが持っている強みであり、私がEOSを選択する大きな理由にもなっています。

もっともこれはCanonが喧伝していないこともあってか周知が進まず、長年EOSを使っているユーザーですら内容を把握していないこともあるマイナーなツール。当然他社ユーザーは知る由もなく、それが「Canonは記憶色」(詳細後述)との風説を生み出す一端となっているようにも思えます。

 *参考:キヤノン:製品マニュアル|Picture Style Editor

 

話をPCUに戻します。ピクチャーコントロールの設定をきちんとキャリブレーションを行ったPC上で行うことにより、カメラボディを使って行う旧来の方法よりも遥かに効率的に作業を行うことができる点は素晴らしい。

しかし、肝心の色に関する調整がトーンカーブ以外実質無きに等しき状況は、片手落ちも甚だしいと言わざるを得ません。あと一歩、その一歩が肝心なのです。そこさえ踏み出せれば、名実ともにCanonに匹敵する環境を提供できるというに。

PCU登場後15年が経過した現在でも変化が無いことから、残念ながら今後もこの点が改善される可能性は極めて低いと判断するのが妥当でしょう。Nikonとしては自分たちの色作りに絶対の自信があり、ユーザーに開放するのはトーンカーブくらいで十分と認識しているのかもしれませんが、個人的には本当に勿体ないことをしていると思わずにはいられません。

 

8. モアレ・偽色耐性は概ねZ7II=EOS R5

続いてモアレ・偽色問題について確認します。なお、各機種のローパスフィルター(LPF)はZ5有、Z7II無、R5有です。

 

いつもの被写体。比較は赤枠部分付近で行います。

 

まずサンプルとして同被写体をスキャナー(CanoScan 8800F:1200dpi)で取り込み縮小したもの。

肉眼ではここまで網点を認識できないため、もう少しスムーズな描写に。これを表示したPCのモニターから2~3m程度離れるとイメージが近くなるかもしれません。

 

こちらスキャンデータの等倍表示。CMYKの網点がよりはっきりと視認できます。

 

左がJPEG、右がACRデフォルト現像。なお、Z両機のJPEGはSDだとシャープネスが強すぎサンプルとして適さないと判断し、FTを用いています。R5はFF(Faithful:忠実設定)です。

ご覧の通り、2432万画素のZ5では盛大にモアレ発生。ACR側だと一段とそれが目立つ結果となりました。ACRはシマシマ過ぎて正直使い物にならないレベルです。

それに対し、4575万画素のZ7IIと4500万画素のR5は全く別物。非常にクリアかつ精細な描写です。一見Z7IIのJPEG偽色がうるさいようにも見えますが、これはさらに拡大していくとマゼンタの網点を拾っている(描写できている)影響であることが確認できます。

R5の方はLPFの効果もあってか上手く平坦化されており、非常に滑らかな描写。傾向の差異こそあれ、どちらも非常に高レベルな描写と評価できます。

 

ACRとディテールの強化(EDL:Enhance Details)。

EDLは偽色抑制効果が期待できるものの、さすがにZ5ではそれも限界が見える印象。改善自体はあってもまだまだ厳しい。

Z7IIとR5に関してはカラーノイズ感が抑えられさらに滑らかな描写に。ただ、本来存在したはずの網点まで平坦化されてしまった感もあるため、必ずしもこちらが良いとも言い難い。状況に応じて使い分けるべき機能であることが見て取れます。

 

このように、モアレ・偽色対策には画素数を上げるという根本的な対処が必要。レンズの解像度が向上した昨今、低画素扱いの2000万画素クラスでは簡単に発生してしまう。そのためこのクラスではLPFは必須と個人的には考えています。

なお以前から主張している通り、モアレ・偽色は普通撮影していても発生するものであり、特別な状況に限ったものではありません。

 

この2枚はどちらもズームレンズのT端開放で手持ち撮影。しかも1枚目は標準クラスの10倍ズーム。それでもこの通り、はっきりと偽色が発生。美しい鳥の姿が、醜いカラーノイズによって損なわれてしまいました。

現代レンズの優秀な光学性能に手ぶれ補正、そしてミラーレス化による低振動化等が相まって、LPF有の4500万画素でも普通にモアレ・偽色が発生する。これが今のカメラの性能です。

 

上記画像はいわゆる奇跡の1枚ではありません。野鳥撮影スキルは初心者同然の私でも、普通に撮影していれば量産される内の1枚でしかありません。

このようにモアレ・偽色問題は特殊な状況下に限ったものではなく、日常の撮影の中に普通に存在する問題なのです。私が低画素機のLPFレス化には懐疑的であるのは、こうしたフィールドテストの結果も踏まえた結果です。

その点、高画素機以外ではLPFを採用しているNikonの判断は冷静かつ実用を重視したものと考えられ、非常に好印象。安易にLPFレスを採用しない点は大いに評価したいところです。

 *参考:ミラーレスカメラ/デジタル一眼レフカメラで光学ローパスフィルターレス仕様または、ローパスフィルターを無効化している製品について| ニコンイメージング

 

9. テスター気分を味わえる動物AF

ここからは色再現性以外の面も見ていきます。まずは動物AFから。今や必須と言っても過言ではない被写体認識。動物AFもその内の一つで私もEOS R6、R5、そしてLumix DC-S5で大いに活用してきました。果たしてそれらと比較してNikonのZはどうなのか。

 

結論から言ってしまうと酷いもので、とても製品版とは思えない完成度です。距離が離れフレーム内で被写体が占める比率が下がると特にダメな印象を受けますが、この程度のサイズ感でも普通に認識できません。特別暗いわけでもなくとも平気で外してきます。

 

こちらは別日にEOS R5で撮影したもの。若干薄暗い森の中、相手がこちらに向かって動いている状況でも普通に認識。EOS R6で動物AFを使うようになって以降、これが当たり前だったのでZの実状は衝撃でした。

 

この日はレンズまで含めほぼ同構成でテストを実施したのですが、Z7IIの動物AFは全くと言っていいほど使い物にならず、結局エリア系AFでは話にならないことからワンポイントに切り替えることに。当然動き回る猫たち相手に歩留まりはR5の足元にも及ばないため、まともに枚数を残せませんでした。AFポイントの初動が信じられないほど遅い上、タッチパネルでのドラッグ操作に対応していない(!)ことも歩留まり悪化に大きく作用しました。

逆に、R5は9割以上動物AFでクリア。危うい場合も常時別ボタンに割り当てた通常AFを併用できるため、全く問題になりません。

しかしZ7IIは複数のAFを別ボタンに割り当てることができず、Fnボタンを押しながらダイヤルを回す必要があります。当然咄嗟の状況で瞬時に切り替えることなど不可能で、実質排他利用。サポートによればZ9でようやくそれに相当するカスタマイズ(AFエリアモード+AF ON)が可能になったとのことですが、Z7IIにはそれが降りてきていません。Zで2番目に位置する上級機にも関わらず、です。

 

youtu.be

NikonではFnボタンにターゲット追尾割り当てることでの対処を推奨しているようですが、これでは一度切り替えが発生するため即応性には劣る上、そもそもターゲットが大きすぎる(WIDE-S相当)という問題があります。

 

なお、レンズを替えても有意差は見られません。少なくとも私の所有する4本ではどれも似たような結果、つまりまともに機能しません。

 

黒猫だから無理がある?しかしR5では同じ猫ちゃんを普通に認識します、それも瞳まで。

 

そしてこれは別にCanonだけの専売特許というわけではありません。Z5の前に試したLumix DC-S5でも、普通に実用レベルで違和感無く撮影が可能でした。

もちろん性能を比較すればCanonに軍配が上がりますし、S5はウォブリングというまた異なる問題点を抱えています。

しかし被写体認識に関しては十分に使える力を持っており、実験機まがいのZ5/Z7IIとは立っているステージ自体が異なる印象です。

 

以前twitterに上げたもの。こう言いたくもなります。

なお私が試した限り、Z5とZ7IIで動物AFに明確な有意差は認められませんでした。これがEXPEED6世代の限界ということなのかもしれません。

 

被写体認識とは要するにエリア系AFの進化系であり、別に奇をてらったギミックというわけではありません。”被写体を捉える”という目的のため、カメラが正常に進化していく中で避けては通れないものです。そしてその機能が他社と比較し明確に劣っているのであれば、批判の対象となるのは当然のこと。いわれのない誹謗中傷ではありません。

特にZ7IIは2022年7月現在で実売36万の製品です。これは普通に中~上級機の価格帯であり、NikonのZでもハイエンドのZ9に次ぐ機種。実売15万のZ5であれば下位機種だから仕方ないが通るかもしれませんが、36万でその下位機種レベルであることが許されるわけがありません。EOS R5/R6よりも後に発売したにも関わらず、Z9が発売される2021年12月までこれが最上位機種、最高性能であったわけですから、Nikonが厳しい批判にさらされたのは当たり前のことです。

そしてそれは今なお続いているということを忘れてはいけません。Z9が出たことで一部では何か問題が解決されたかのような雰囲気がありますが、Z9はあくまでZ9。Z7IIの後継機ではありません。Z7IIはもちろんそれ以外のクラスも現行機種として販売が継続しており、未だ後継機の発表すらなく周回遅れ状態のままです。

 

10. 勝負にならない連射力

Z7IIは前項で述べた被写体認識(AF)だけでなく、動体撮影に重要な連写能力に関しても大きな問題を抱えています。

スペックだけ見ればメカシャッター時の連続撮影能力はR5が12fpsなのに対し、Z7IIは10(9)fps。そこまで劣らないのではという印象を受けるかもしれません。

しかし、それはあくまでカタログスペック上でのこと。実使用時に重要な連写継続力、そしてバッファ開放速度に天と地ほどの開きがあるのです。

 

メディア3種での簡易検証結果。時間は厳密ではなく基本0.5s単位で表記。

このように、Z7IIはどのメディアであっても連写が続くのは4~5秒。この程度でバッファがフルになってしまう、容量自体が少ないことがわかります。そしてメディアへの書き込み速度も遅いため、実に10倍近い高速メディアを使っても開放速度は1.7倍程度にしかなりません。

つまりバッファ容量が少ない上にメディアへの書き込み速度も遅いという、とても中~上級機とは思えない仕様なのです。これでは例え9(10)fpsの高速連写ができたところで実用性は乏しく、見せ掛けだけのカタログスペックと言わざるを得ません。一瞬だけ高速連写できたところで、息が続かないのであれば意味は無いのです。

 

それに対し、R5はcRAW(非可逆圧縮)であれば低速なSDXCでも27.5秒。非圧縮RAWでも10秒とZ7IIの倍以上。しかも12fpsでですから比較になりません。

更にメディアの高速化にはリニアに反応し、CFexpress COBALTであればバッファ開放も1秒未満。実質無限連写が可能になります。

なお、試しに5秒で連写を止めてみたところ、バッファ開放はSDXCでも5秒。つまりZ7IIにCFexpress COBALTを使った状態よりも倍早いことが確認できました。格が違いすぎてまるで勝負になりません。

 

youtu.be

条件は異なりますが、実際の連写状況についてはこちらの検証動画が参考になるかと思います。

 

なお、前出の動画ではここまでの連写を必要とするのは少数派であると述べていますが、動体撮影時は普通に必要とされる領域です。

 

例えばこうした野鳥撮影。人間のようにイチニノサンで動いてくれるわけでも、乗り物のようにコースや線路に沿って動いてくれるわけではありません。いつ、どのように動くかは相手次第。どれだけ動き続けるかも相手次第。そしてベストショットの瞬間がいつ来るのかは、誰にもわかりません。

 

そうした状況に対応するために助けとなるのが高性能なAFに高速連写、そして連写継続力なのです。

いつ来るかわからない瞬間だけシャッターを切るというのは、およそ常人には不可能なこと。少なくとも私の腕では不可能です。来るであろうと感じたら当たりを付けてシャッターを切り始める。そうでなければ間に合いません。Z9のプリキャプチャと同系の機能が各社製品に存在するのも、そういった状況に対処したいという需要があるからこそでしょう。

 

私がよく使うのが、1秒程度の連写です。動きそうな起りを感じたらまずシャッターを切る。ただし無限連写では色々な意味で大変になってしまうため、秒間隔で小刻みに。そしていざ大きな動きを見せた時は、そのまま追従し連写を続ける。言うなれば、手動連写によるプリキャプチャとも言えるかもしれません。

こうした撮影を行うには、高い連写継続力が必須。たったの5秒足らずでバッファが溢れ、最高速のメディアを使っても回復に10秒以上かかるZ7IIでは、まるで話にならないのです。

 

今回は事前に状況を把握しないまま、たまたまR5用にCOBALTを購入したことを切っ掛けに検証を行ったのですが、あまりの酷さに絶句してしまいました。AFのみならず連写能力もこれでは、Z7IIをパスしZ9に行く動体撮影派が散見されるのも納得です。

 

今回のテストメディア。

率直な印象として、この程度の連写力ならSDXCのGOLDで十分なのではないでしょうか。CFexpressのCOBALTを使ったところで多少バッファクリアが早くなるだけで、連写が継続するのはたったの5秒。そもそもの話、連写を要する用途に使うことが間違っているカメラとしか思えません。

 

11. 使えばわかる?劣化したユーザビリティ

Nikonの良さは使えばわかる」よくレビュー等で目にする言葉です。Z7IIもその例に漏れず、手にするとその良さが実感できるといった話は散見されます。

確かにこれは一理ある言葉で、私もZ6/Z7発表時はまるでα7の偽物のようなデザインに絶句したものですが、店頭で実機を触ってその考えを改めました。グリップ形状等、実際に手にしてみると明らかにSONYよりも好感触。なによりEVFのチューニングが非常に優秀で、なるほどさすがは老舗Nikonと思ったものです。

しかし、実際に購入しフィールドに持ち出してわかったことは、なぜこうなったと思わずにはいられない、実用性に乏しいデザインでもあったということです。

 

縦長過ぎて誤操作を誘発するFn1/2ボタン。

グリップのフィット感は確かに良いです。Z5からZ7IIでは若干ボディの厚みが増したためか、それもプラスに働いています。

しかし、このFnボタン特にFn1ボタンはなんですか。中指の直線状に位置する上、縦長形状なために意図せぬ接触が頻発してしまう。特にグローブ着用時は最悪で、握り込めばほぼ毎回のように反応して本当にストレスフルです。これをデザインした人は素手で使用することしか想定しなかったのでしょうか。

 

大きなレンズ取り外しボタン。

大きなこと自体は何の問題もありません。しかし、このようにボディの端スレスレに位置するのに、誤操作防止のガードも無いのはなぜなんでしょう。

私がZ5でフィールドテストを始めた時、なにかカチカチ音がすると思ったら、縦横位置変更する時にボタンが解除され、レンズのロックが外れていたためでした。これも素手の時は基本問題にならないのですが、冬用のグローブをしていると着ぶくれ部分にひっかかりやすいのです。

NikonのZはレンズ根本にコントロールリングを配したレンズも多く、根本付近をこじるような操作が発生することは当然想定内。にも関わらず、レンズ交換時以外は使用せず、アクセスしやすさより安全性を重視すべきボタンを、このように無防備に晒す意味がわかりません。

なお、CanonはEOS R5/R6からより安全性を高めるため、ボタンがボディに埋没したデザインに変更しています(インタビューでもそう回答している)。

 

開閉音にまでこだわったと語るメモリーカードカバー。確かに小気味よい音です。

しかしこの凸部分までカバーの一部になっているため、掌に引っかかり意図せぬ開閉が行われてしまうことがあります。これまたグローブ着用時に確率が上がり、特に滑り止めが付いているタイプだと発生しやすくなります。

確かにこのカバーは開きやすく、動作音も良いかもしれない。しかしレンズ取り外しボタン同様、メディア交換時以外は使用しないものです。開閉のしやすさよりも、むしろロックボタンなりあった方が良いと判断するのが妥当な箇所でしょう。

 

そして最悪だと感じるのがこの右肩周り。この露出補正ボタンの位置はなんですか。何を考えたら指の付け根方向に最大限寄せたのか。あまりに近すぎるため、ボタンを押そうとするとグリップから手が浮きそうになるほどです。スタート地点はシャッターボタンなのに、なぜこのような配置にしたのか理解できません。

そしてリアのメインコマンドダイヤルも最悪。無意味な上面露出に右側まで接触できるタイプにした結果、ストラップ取付部が前方に移動せざるを得なくなり、結果として人差し指での操作を阻害することになっている。

上面露出は印字があったり亀の子構造になっている場合は意味があるが、Z7IIではデザイン以外でこうする必然性が皆無。右側まで指がかかるようにするのも誤作動防止のための硬いスイッチなら必要だが、Z7IIのような軽いタイプでは無意味。むしろ体等への接触で無駄に誤操作を誘発することになるため、避けるべき仕様でしょう。正直、α7III辺りの上辺だけなぞって真似したようにしか見えません。

 

なお、酷いのはボディに留まりません。例えばこのZ 50mm f/1.2 S。Noctを除けば間違いなくZ最上位レンズの1本ですが、ユーザビリティは最悪。根本のコントロールリングはノンクリックで触れただけでスルスルと回ってしまう上、回転角も異常に小さい。即offにしたという人がいるのも納得です。

そして無意味に幅が広すぎるフォーカスリング。これのせいでレンズの重心があるコントロールリングとの間が非常に狭くなってしまい、レンズをホールドする際どうしてもフォーカスリングに指が接触してしまう。結果、意図せぬピント移動が発生しやすく、特に縦横位置を変更する時は誤動作させない方が難しい状況に。

回転角が大きくトルクも要するMFレンズならともかく、バイワイヤのAFレンズでこの幅はデザイン優先以外の理由が見当たりません。

 

こうした「使えばわかる」、かつてNikonが誇っていたはずのユーザビリティが明らかに劣化していること。それをこのZ7IIからは強く感じます。

初代であるZ6/Z7であれば、ある種のコンセプトモデルとして理解できました。Z5もそれを流用し、コストパフォーマンスの高い機種として評価できます。しかし、第2世代であるZ6II/Z7IIで何の改善もしてこなかったこと。15万で販売できるZ5と実質同じボディというのは、どう考えても上級機として許されるものではないでしょう。

 

なお、NikonはZ9で前述の問題点についてほぼ全て修正(戻し)を行いました。もし仮にZ7IIのボディデザインがミラーレスとしてベストだと判断しているのであれば、このような改善は行わなかったでしょう。そして本来であれば、その改善は第2世代のZ7IIの時点で行われるべきものだったと考えます。

 

12. Nikonは記録色、Canonは記憶色の矛盾

Nikonは記録色、Canonは記憶色」との言葉を目にしたことはないでしょうか。これは様々な場所でまことしやかに語られており、Nikonは現実の色を忠実に記録し、Canonは記憶の中にある色を再現しているというのです。

しかしながら、私はその論拠となるデータが示されていることを見たことがありません。だからこそこうして自ら検証を行っているわけですが、これまで一度も確認が取れていません。以前のD750でも、古くはD300でも今回のZ同様Rは大きくプラスに傾き、赤ではなく朱に転んでいました。前述の通り、調整しようにもNikonのPicture Control Utility(PCU)はCanonのPicture Style Editor(PSE)のように部分調整ができないため、全体の色相が回ってしまい他の色も影響を受けてしまう。そのため実質的には対処方法が無く、後はもうRAW現像かPhotoshop(Ps)などの画像編集ソフトで調整するしかありません。ですがこれは外部ソフトによる対処であるため、「Nikonの色」からは逸脱したものです。つまりNikonで完結できる範疇では「Nikonは記録色」を再現できないのです。

 

左がZ7IIのNL/FT、右がR5のFF。sRGB変換前のAdobeRGBファイルはこちら
こうしてチャートで見ても、より忠実なのはむしろR5の方です。

 

そしてもう一つの大きな矛盾が「Canonは記憶色」です。これはCanonユーザーであっても思わず頷きそうになってしまう言葉で、一見何も間違っていないかのように思えます。

しかし前述の通り、CanonはPSによって全く異なるキャラクターに変化するのです。

確かにオートやSD(Standard:スタンダード)では派手目な記憶色傾向に仕上がるのに対し、FF(Faithful:忠実設定)ではCanonが「標準的なデーライト光源下で撮影された被写体が、測色的にほぼ同じ数値の色となるように調整されます」と説明する通り、極めて忠実な色が再現されることは今回のチャートでも確認済み。これを記憶色と評価するのはあまりにも無理があると言わざるを得ません。

つまり、Canonは記憶色から記録色まで幅広く対応することができ、どうなるかは設定次第というのが正しい評価でしょう。「Canonは記憶色」は非常にキャッチーで使いやすい言葉かもしれませんが、一部を切り取っただけの印象操作とも取れるものであり、軽々に用いるべきものではないと私は考えます。

 

このように、「Nikonは記録色」だけでなく「Canonが記憶色」にも完全な矛盾があることから、この「Nikonは記録色、Canonは記憶色」は根拠なき風説に過ぎないのではと思わざるを得ません。少なくとも、私の検証結果からはそのような結論しか導き出せないというのが現状です。「Nikonは記憶色、Canonは設定次第」が実状に即した評価ではないでしょうか。

もし「Nikonは記録色」を再現できる方がいらっしゃいましたら、ぜひともその手法をレポートとして公開して頂ければと存じます。私では独力でそこに辿り着けそうにありませんので、ぜひその手法で再現テストを実施させて頂きたいです。特別な条件下でしか再現できない時点で問題がある点はさておき、Nikonで色に悩む人々にとっても大きな助けになるはずです。

 

13. Zレンズは他社比でも神レンズ?

ボディへの批判に対し、聞こえてくるのがNikonにはZレンズがあるからという声。Zレンズにハズレ無し、使いたいレンズがあるからボディを買っているというものです。

これは大いに頷ける話であり、私もZレンズを試したかったというのが最大の購買動機です。実際に試した結果も良好で、各所での高評価も納得行くものでした。一眼はいくらボディが高性能でも、それを活かせるレンズが無ければ無意味。高い光学性能を誇るZレンズは、ミラーレス時代のボディに相応しい高性能レンズと言えるでしょう。

しかし、それは他社(他マウント)比であってもそうなのでしょうか。Zレンズにハズレ無しが拡大解釈されたのか、web上では他社と比較しても圧倒的に高性能であるかのような意見も散見されます。果たしてそれは事実なのか。

 

対となるZ/RFレンズ群。50mm以外はズーム倍率に若干の差異あり。

私は少ないながらもZレンズと対になるRFレンズを所有し、ボディもZ7IIと同等クラスの画素数を有するEOS R5を所有しています。その立場からすると、これは誤りであるとしか思えません。

Zレンズは確かに高性能なレンズが揃っている。しかしそれはあくまで絶対評価。他社と比較した相対評価ではない。これが私の認識です。

Zレンズは神レンズ、他社と比べても高性能。この手の主張はZしか所有していないユーザーに多く、他社レンズも所有しているケースは少ないように見えます。逆に併用しているユーザーは、メリット・デメリットを冷静に評価しているケースが多い。まさに「使えばわかる」といった状況になっている印象です。

 

ユーザビリティ悪化の一因となっているコントロールリング。なぜノンクリックかつ、ここまで回転角を小さくしてしまったのか…

例えばZ 24-200mm f/4-6.3 VRは高倍率ズームとは思えない性能で、Z 24-120mm f/4 Sにも見劣りしないとすら評価されることがありますが、私が試した限りとてもそうは思えません。むしろ解像度はより高倍率のRF24-240mm F4-6.3 IS USMと同等程度。そしてこれはボディに起因するとは考えられるものの、AF面は完全にRFに劣っています。

Z 50mm f/1.8 SはF1.8の50mmとしてはハイクラス(高価格)レンズなわけで、いわゆる撒き餌クラスのRF50mm F1.8 STMより高性能なのは当たり前。比較するのであればLUMIX S 50mm F1.8辺りが妥当です。ちなみにDC-S5で実際に使用していましたが、こちらも普通に良いレンズでした。思い返してみてもZ 50mm f/1.8 Sに見劣りするという印象はありません。なお、LUMIX S 50mm F1.8の方が低価格です。

Z 24-120mm f/4 Sに関しては、こちらのレビューが参考になるでしょう。

asobinet.com

私も概ね同意見で、ぱっと見のキレはZ 24-120mm f/4 Sに分があるとは感じるものの、結局のところパワーバランスをどう振ったかの違いでしかないように思えます。

 

そして神レンズと名高いZ 50mm f/1.2 S。このレンズのためにボディを買う価値があると言われるほど評価は高く、私も最終的にこれを試すことが目的だったと言っても過言ではありません。

実際にその写りは素晴らしく、ボケの遷移は非常にスムーズで自然な描写。そのサイズも納得の写りであり、RF50mm F1.2 L USMが値上がりしたこともあって25万の価格もお買い得と感じてしまう程。これならZユーザー必須の1本と言われるのも納得です。

 

どちらも開放でJPEG撮って出し。より高解像度な画像はこちら(a/b

ただ、かと言ってRF50mm F1.2 L USMとの間にそこまで明確な差異が存在するかと問われると、返答に窮するというのが正直なところ。確かにボケの描写に関してはZ 50mm f/1.2 Sに分があるとは感じているものの、例えばこの写真。色抜きのレンズ描写だけでどちらがどちらか見分けはつくでしょうか。なお、ACRを用いボディ内現像の影響を排除すると更に差異は縮まります。

もちろんこれがレンズの得意とする距離ではなく、差異が目立たないケースを取り上げているに過ぎないという意見もあるでしょう。ただ、それを言い出すとRF50mm F1.2 L USMとてマクロレンズではないため、別段接写が得意というわけではありません。そして距離も最短ギリギリというわけではなく、0.9m程度。そもそもこうした普通の撮影で明確な差異を感じさせないケースもあるということが、この2本の間に隔絶した性能差が存在するわけではないことの証左とも言えるのではないでしょうか。

 

RF50mm F1.2 L USMも価格以外にAFが繰り出し系であまり速くない上ガクガク煩かったり水やチリの混入が気になったりと、満点のレンズではありません。しかし単純に写りだけ比較するのであれば、キャラクターは異なるがどちらも極めて高いレベルで拮抗。状況次第で解像ならRF50mm F1.2 L USMだが自然なボケによる品位の高さ、自然な立体感等はZ 50mm f/1.2 Sとなるケースもある、といったところでしょう。

私自身、感覚としてはZ 50mm f/1.2 Sの自然でスムーズなボケの遷移に強みがあると感じてはいるものの、上記画像の通りそれが常に表れるわけではないため、このような検証においても”これ”と言った明確な差異が存在する作例を提示することが難しいというのが正直なところです。個人的な話ではありますが、これは私が基本この子(猫)を撮るために50mmを使っているため、全体的に寄り気味であることも影響していると推察します。

ちなみに上記画像の答えはこちら。aがZ7II+Z 50mm f/1.2 SでbがEOS R5+RF50mm F1.2 L USMでした。

 

14. 結論

忠実色ではないが、豊かなトーンを備えしっとりとしたリッチな描写。高画素機らしくモアレや偽色も十分抑制され非常に滑らか。そして純正ソフトのNX Studioは再現度が完璧なだけでなく、処理速度もACRに匹敵するレベル。PCUは色相関連の調整ができない点は非常に残念だが、オリジナルのトーンカーブを書き込めることは他社にない強みと言える。

他方、被写体認識やAF、連写に関しては話にならないレベルで、Nikonが得意としたはずのユーザビリティも最悪。UIの理合を理解せず人気機種をコピーしたかのようなデザインは、まるで劣悪な中華コピー。醜悪ですらある。

実売15万のZ5のセンサーだけ載せ替えたようなものに36万の価値は無く、コストパフォーマンス(CP)は最悪。試作品まがいの完成度はどう考えても推奨できる機種ではない。

 

まるで兄弟機のような2機種。しかしその価格差は21万。

このZ7IIを購入にする際、正直Z7で済ませてしまうかでかなり悩みました。なぜなら大差ない、Z7の中古を買うのが一番という評判ばかりだったからです。確かに処理エンジンをデュアル化した以外はほとんど変わっていないわけですから、大きな変化が無くとも不思議はありません。

にも関わらずZ7IIを購入したのは、ひょっとしたらZ7IIなら違ったのでは?という言い訳をなくすためです。この機種は2021年12月にZ9が発売されるまでZの最上位機種であり、2022年7月現在でも2番目に位置する現行機種。つまりZ9に次ぐ性能を有している、していなければならない。それを検証することで、Nikon Zの現状を把握できると考えました。

また、実際に使ってみたら世間で言われているほど悪くはないのではないか、という期待もありました。

 

実売15万のZ5と同等のデザイン。質感も操作感も同等。

その結果は既に各項目にて述べた通り。想像よりも良いところもあったし、悪いところもあった。しかし後者の方が圧倒的に多かった。それも想定を大きく超えるレベルで。

率直に言ってしまえば、このZ7IIには失望させられました。これがR5と同年しかも若干とは言え後発品で、今現在も現行機種として36万で販売されていることが信じられません。既にCanonは当機より圧倒的に高性能なAFを有するR7を本年6月に18万で投入、そして今月はついに11.6万でR10が投入されます。既にNikonで言えばZ50クラスでもR5レベルのAFが当たり前の時代が始まっているのです。

これはCanonだけに限った話ではなく、SONYはもちろんのことOM-DのE-M1。そしてFUJIFILMまでX-H2Sという新路線で動体向け分野に切り込んできました。これが2022年のカメラ業界です。

 

それらに対し、Nikonで戦える余地のある製品はZ9だけ。実売63万の最上位機種でなければ、土俵に立つことすらできない。直近で投入できたのはVlog向けのZ30だけ。他は新型の開発発表すらできていない。これが周回遅れでなくてなんなのか。それも1周どころではなく、2周以上遅れているというのが実状に対する正しい評価でしょう。

 

ツルツルで非常に滑りやすく操作しづらいZ 50mm f/1.8 Sの「コントロールリング(フォーカスリングではない)」。対してZ 50mm f/1.2 Sは「フォーカスリング」だからかゴム引き。幅は無意味に広く誤操作を誘発する。

前項で述べた通り、Zには光学性能的には高性能で魅力あるレンズが存在することは間違いありません。しかしこのユーザビリティの低さはなんなのか。動画専用でもないのに触れやすい根本のコントロールリングをノンクリックにしてしまったり、これが本当に数多くのレンズを作ってきたNikonのデザインなのかと思わずにはいられません。

 

1種類しか存在しない格子線表示。どういう訳かZfcの方が種類が多い。

カスタマイズ性の低さも欠点の一つ。以前からNikonNikonの考える正しいお作法(ただし頻繁にブレる)でカメラを使って下さいというスタンスを感じます。しかしただでさえ肝心な部分が低性能なのに、それを補おうと使い方を工夫することすら封じてどうするのか。Fnボタンに割り当てられる機能が少なすぎます。

 

価格で見れば近いクラス。実運用で見ればエントリー機レベルとプロ・ハイアマ機の超えられない壁。

100歩、いや1万歩譲ってセンサーやエンジンは更新が間に合わなかったというのであれば仕方ないかもしれません。しかし、ボディのデザインを修正できなかったのは100% Nikonの責任です。むしろNikonに期待し、ミラーレス機を購入してくれるユーザーをバカにしていると言われても仕方ないくらいでしょう。

Z5と実質変わらないボディ。Canonで言えばEOS RPのセンサーだけ高画素化しR5と名乗るようなもの。それで価格は+21万。CPが良いとは口が裂けても言えません。Z7の中古が持て囃されたのも、こうしたCPの悪さ、手抜きが見透かされたからのようにも思えます。

 

もちろんZ7IIを高く評価し愛用している方がいることも承知しています。私はそれを否定するつもりは毛頭ありません。評価というのは人により異なって当然で、特に道具であるカメラなら尚の事。私が酷評したからと言って、その方々にとってZ7IIの価値が下がるわけではありません。一連の批評はあくまで私の価値観に基づくものであるということを、どうかご留意頂きたく存じます。

 

そんなわけで22000文字オーバーと過去最長(R5の2倍)となってしまった本レビュー。従来であれば色関連の評価にプラスして総評といった感じでしたが、今回はZシステム全体にまで言及せざるを得なかったため、基本1万文字以内って考えてるのにとんでもないことになっちゃいました。もう自分で目を通すだけでも大変です。

ただ、内容がかなり否定的な要素を含むことから、その論拠を示すようには心掛けたつもりです。賛否はともかく、それなりに「なるほど」と思って頂けたのではないかと思います。

 

今回の検証、そして日常的にZを使用してNikonに伝えたいと思ったことは以下の通りです。

 

さっさとこの醜悪な試作品を引っ込めろ そしてまともな後継機を出せ

 

レンズの光学性能が良いから、画質が良いから他は問題ではないとの論調も見かけます。しかしZ9を見るに、Nikonは別にプアマンズライカを目指しているわけではないでしょう。

現在の基準に達しているのがZ9だけというのは明らかに異常な事態です。ファームウェアでどうにもできないなら、一刻も早く他社と同等以上の戦いができる後継機を出して下さい。そしてZ7IIを過去の話にして下さい。それが私の望みです。

 

参考までに、今回の検証で使用したプロファイルを公開しておきます。以下の記事からどうぞ。

 Custom Camera Profile

 

関連記事

 EOS R5 color test - after ACR 14.2
 EOS R5 review - color test vs EOS R6
 EOS R6 review - color test vs EOS R
 Custom Lens Dust Cap RF
 EOS R color test - after ACR 11.2
 EOS R resolution test vs α7III
 EOS R SNR test vs α7III
 EOS R color test vs α7III
 α7III color test vs α7II
 α7II color test vs D750 & EOS M2 & K-5IIs
 D750 color test vs K-5IIs
 Custom Camera Profile
 EOS M2 color test vs D750 & K-5IIs
 D750 color test 2 (retest)