snowfallのメモ帳

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EOS R color test - after ACR 11.2

ACR11.2でEOS Rの色はどう変化したか - 11.0比での再検証

  1. 大きく補正されたG
  2. ACR Canon用プロファイルはほぼ変わらず
  3. 改善されたColorChecker Passportとの相性
  4. ディテールの強化はモアレ抑制にも効果あり
  5. Adobeプロファイルベースは11.2でも優秀
  6. 結論

ACR(Adobe Camera Raw)は11.0でEOS RのRAWに対応したものの、カメラのWB設定とはかけ離れた値で認識されるといったバグが存在しました。
その修正が11.1以降で行われた結果、色再現も大きく変化。11.0での現像結果とは全く異なるため、本稿執筆時の最新版である11.2を用いて再検証を行います。

 

本稿はACR関連のみの再検証となります。そのため用いるRAWは前回取得したものと同一です。検証環境等の詳細については以下をご参照下さい。

 EOS R color test vs α7III

 

1. 大きく補正されたG

ではまずAdobeデフォルトプロファイルにおける11.0と11.2の差異から見ていきます。

 

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ひと目で分かるのがGが大きく補正されていること。Acol/ASD/ANL(Adobe Color/Standard/Neutral)全てで10度以上マイナス補正されており、プラスに回りすぎていた値が大きく改善されています。そしてMもより理想値に近い値となりました。

その一方で、BとRは理想値との差異が開く結果に。Bで4から5度、Rで3度のズレが生発生。また、Bの影響を受けてかCの差異も大きくなっています。

 

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チャート比較。sRGB変換前のAdobeRGBファイルはこちら。Cの差異がsRGBでは極めて小さくなっていることに注意。

こうして目視で確認しても一目瞭然。どの色も左右で明らかに異なり、同一RAW/プロファイルとは思えない差異が生じていることがわかります。

 

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Acolの抜粋。sRGB変換前のAdobeRGBファイルはこちら

数値で見ると色相以外も大きく変化しており、BとCの輝度以外は軒並み低下。特にR/MとCの彩度は差異が大きく、誤差の範疇で片付けられるレベルではありません。

総じてコントラストが低下した感があり、感覚的な言葉で評せば色乗りが悪く地味になった、くすんだと言ったところでしょうか。

 

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等倍切り出し。

さすがに全体像では交互に切り替えでもしない限り認識しづらいものの、Gのように大きく変化した色に関する部分はこうして視認できるレベルの差異が生じています。

 

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そして個人的に気になるのがこのR。確かに11.0では彩度輝度共に高めで若干色が浮いてしまうような傾向はありました。

しかし、では11.2の方がリアル(忠実)かとなればそうとも言えません。色相がプラスに3度回った影響で明らかに赤から朱に近づいており、現実からは離れてしまっています。

 

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等倍切り出し。

その影響はOなどにも及んでおり、こうして比べると退色感が。総じて見れば確かに11.2の方が「Adobeの色」に近づいてはいるものの、個人的には必ずしも11.0よりも改善されたとは言い難いと感じます。

 

なお、11.2は11.0との互換性が確保されていません。11.0での現像設定をそのまま変更せず開いたとしても異なる結果(色)となり、それは11.2とも異なる11.0に近い第三の結果となります。

つまりACRでEOS RのRAWには「11.0」、「11.2」、そして「11.0の現像設定を持つRAWを11.2で開いた場合」の3パターンの現像結果が存在します。

 

2. ACR Canon用プロファイルはほぼ変わらず

次にCanon用プロファイル(カメラマッチング)の差異を確認します。

 

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v2となった11.2の新プロファイルでも11.0ほとんど変化は無く、その差異は最大でも1度。誤差の範疇です。

そしてEOS Rの撮って出しJPEGとの差異が極めて小さいことも変わりません。非純正としては極めて優秀と評価できます。

 

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チャート比較。sRGB変換前のAdobeRGBファイルはこちら

こうして目視で比較しても差異が判別できないレベル。全体像をレイヤー表示し切り替えても区別がつきません。

大きく変化したAdobeデフォルトプロファイルとは異なり、Canon用プロファイルに関しては実質同等と考えても問題ないでしょう。

 

3. 改善されたColorChecker Passportとの相性

次はColorChecker Passport(CCP)を用いてACR11.2用のプロファイルを作成し、前回11.0で取得した値と比較します。

 

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明らかに過補正だった11.0とは大きく異なり、B以外はほぼ理想に近い値となりました。8度も差異の生じていたRが完全に補正されていることは素晴らしい効果。

BやMはAcolよりも差異が開いてしまったものの、それも1度だけであり誤差の範疇と言えます。

 

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チャート比較。sRGB変換前のAdobeRGBファイルはこちら

同一機種かつCCP同士ということもあって類似性はあるものの、やはり比較すればより自然な色味に。特に回りすぎて赤を超え紅に近づいてしまっていたRや、その影響を受けていたMがバランスよく補正されています。

 

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等倍切り出し。

個人的に重視しているRが彩度や輝度の面でも好バランスなため、今回の結果は極めて好印象。

CCPは同一機種でも状況によって結果が異なるため必ずこうなるとは限りませんが、これならば積極的に試してみる価値があると言えそうです。

 

4. ディテールの強化はモアレ抑制にも効果あり

次に11.2で実装された新機能、ディテールの強化(EDL:Enhance Details)による変化を確認します。

 

blogs.adobe.com

 

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Acolのチャート抜粋。

数値上の差異は完全に誤差の範疇であり、実質的には無きに等しいレベル。目視で確認しても見分けることは極めて困難、というかほぼ無理でしょう。

 

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等倍切り出し。

しかし実描写はこの通り。明らかな差異が生じており、EDLの方がより高品位な描写になっていることが把握できます。EDLと比べてしまうとデフォルトはすっきりせず、色が濁ったような印象です。

 

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300%に拡大(ニアレストネイバー)したもの。

その原因はモアレの有無。元々EOS Rのモアレは抑えられていたものの、ゼロではありませんでした。

 *参考:EOS R resolution test vs α7III

それがEDLではほぼゼロと言えるレベルにまで改善。その結果、色の濁りが大きく抑えられたのです。

 

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等倍切り出し。

この効果は何もEOS Rに限った話ではありません。モアレが目立ったα7IIIでもこの通り。壁側面や手前側の柵で強烈に発生していたモアレも見事に抑えられました。

モアレはカラーノイズとして作用し、強い場合は縮小しても影響が残ってしまう厄介なもの。それをこうして抑制できれば描写品質向上に大きな効果が期待できます。

 

ただし、モアレはあくまで軽減されるだけであり、ゼロにできるわけではありません。

 

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300%に拡大(ニアレストネイバー)したもの。

元々モアレが目立ったα7IIIではEDLを用いても完全には抑えられず、EOS Rのデフォルトよりも残っている印象。やはり最初からできるだけモアレが少ないことが重要であることがわかります。

また、被写体によってはあまり効果が確認できない場合もあり、EDLは全ての面で必ずしも効果を発揮してくれる機能ではないようです。ただ闇雲に常用すればいいというわけでもありません。

しかしながら、効果が発揮された時は明らかな改善が期待できることは間違いありません。「ディテール」だけでなく、こうして「色再現」にも影響があるEDL。質を求める場合は必須の機能と言えそうです。

 

5. Adobeプロファイルベースは11.2でも優秀

次はACR11.2用にAcolとANLをベースにしたカスタムプロファイルを新たに作成し、11.0版と比較します。

 

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数値だけ見れば11.0の方が良好です。BとCが共にマイナスだったこともあり、簡単に補正できたためです。

それに対し11.2はBがマイナス、Cがプラスに転んでいるため補正が難しく、ある程度の妥協が必要な結果となりました。

とは言え理想値との差異は2度以内に収まっており、十分優秀なレベルです。

 

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Acol版チャート比較。sRGB変換前のAdobeRGBファイルはこちら

11.0版を作成してからまだ4ヶ月程度。特に方向性は変わっていないこともあってどちらも似たような傾向の色作り。

ただ、破綻を防ぐため補正は最小限に留めていることもあり、カスタム版同士で比較しても11.2の方が地味な感じに仕上がりました。

 

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ANL版チャート比較。sRGB変換前のAdobeRGBファイルはこちら

こちらもAcol版と傾向は変わりません。

 

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最後にそれぞれのAcol/ANL版比較。sRGB変換前のAdobeRGBファイルはこちら

やはりこうして並べてみると11.0の方が彩度も高く、派手な色味になっていることがよくわかります。

逆に11.2は落ち着いた地味な色味。そしてそれは素材としては扱いやすいことも意味しています。

 

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一部切り出し(縮小)。

とは言えどちらも補正後はRがきちんと赤になっていたりと、悪くない仕上がりになりました。

11.2は素の状態だと若干疑問もあったものの、こうして補正してみると素材としての素直さはほぼ変わらず、結果はむしろ良好と評価できそうです。

 

6. 結論

素材としての素直さは損ねておらず、扱いやすさは11.0と同等以上。それに加えEDLも追加され、場合によっては描写を大きく改善することが可能。互換性を損ねた上にその情報をユーザーに公開していない件は論外だが、切り替える価値は大いにある。

 

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11.1ではv2プロファイルやWB値のサイレントアップデートが行われた上、11.0との互換性も損なわれたことで無用な混乱を招く結果となりました。率直に言って問題ある対応と言わざるを得ません。

しかしながら、前述の通り現像結果自体は傾向の変化こそあれ、同等以上の色再現性を有していることは変わりありません。更にCCPとの相性も向上、EDLといった描写品質を大きく改善できる機能も追加されました。

特にEDLはボディのセンサーシフト系機能のように専用モードを用いる必要もなく、RAWさえあれば利用可能。デメリットはファイルサイズが大きくなること程度しかないことから、気軽に試すことができます。

11.0で現像したRAWをもう再現できないことは残念ではあるものの、メリットもあると気持ちを切り替え最新版を使っていくのがベターな判断と言えるでしょう。

 

参考までに、今回の検証で使用したプロファイルを公開しておきます。以下の記事からどうぞ。

 Custom Camera Profile

 

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