EOS R5 color test - after ACR 14.2
ACR14.xで何が変わったのか - EOS R5用プロファイルを再検証
ACR(Adobe Camera Raw)は14.0でEOS R5/6用プロファイル(カメラマッチング)が実装されました。
実装されたプロファイルは撮って出しJPEGやDPPとどのような差異があるのか。またAdobeのプロファイルに変化はあったのか。本稿執筆時の最新版である14.2を用いて再検証を行います。
本稿はACR関連のみの再検証となります。そのため用いるRAWは前回取得したものと同一です。検証環境等の詳細については以下をご参照下さい。
EOS R5 review - color test vs EOS R6
1. 非純正としては優秀だが明確な差異のあるR5用プロファイル
ではまずACRのR5用プロファイルと撮って出しJPEGとの差異から見ていきます。
非純正であることを考慮すれば優秀と評価できます。しかし最大で4度の差異が存在するなど、全て2度以内に収まっていたRと比べると随分と見劣りする結果となりました。
グラフでチェック。
やはりこうして見てもSTD以外は暴れ気味。特にBの値で差異が目立ちます。全体で見るとプラスに転ぶ傾向があるようです。
チャート比較。sRGB変換前のAdobeRGBファイルはこちら。Cの差異がsRGBでは極めて小さくなっていることに注意。
こうして目視でもその差は歴然。似通っているとは評価できても同等と言えるものではありません。
全体像。
このサイズでは色味に明確な差異は感じられません。ただ、背景グレーから輝度差があることは認識できます。
2. 現像ソフト≠撮って出し(ボディ内現像)
ベタ塗りのチャートでは明確な差異があっても、引きで見れば誤差であるなら実用上は問題にならないのではないか。
その点についてのサンプルがこちら。すべてSTD(Standard)から切り出したもの。
JPEGとDPPはかなり類似しているのに対し、ACRは明らかに別物であることがはっきりと見て取れます。これは色相以外にも大きな差異があるためです。
輝度からしてこの通り。ほぼ同等のJPEGとDPPに対し、ACRでは明らかな差異が。
これは単にアンダーだからという問題ではないため、露出をプラスしただけでは揃いません。やるならトーンカーブを微調整していく必要があるでしょう。
これは一部を1600%表示したもの。1マスが1ピクセルです。
左の単純なベタ塗りチャート部分とは異なり、右の複雑な描写は差異が大きくなっていることがわかります。これはそれぞれデモザイク処理が異なるためです。
純正だけにかなりの類似性が見て取れるDPPとは異なり、ACRでは全く異なる描写。これでは全体的な雰囲気が変わってくるのも道理でしょう。あくまで良く出来た”Canonの真似”でしかないのです。その前提を踏まえた上での評価が必要でしょう。
また、これは同時に純正のDPPであってもボディ内現像を完全には再現できないことも示しています。
なお、R5のボディ内現像は撮って出しを完全再現可能です。これは当然と思われるかもしれませんが、それができない機種も存在します(Panasonic LUMIX DC-S5でメーカー確認済)。絶対ではないことはご注意下さい。
3. 同じAdobeプロファイルでも損なわれる互換性
そして驚くべきことに、ACRでは同じAdobeのプロファイルであっても差異が生じています。
サンプラー配置図。これらのポイントをACR13.1と14.2で比較してみると…
Bの彩度が1%も違いました。当然平均や標準偏差にも差異が生じています。これはどちらもAdobe Colorであるにも関わらず、です。
ちなみに他のプロファイルでもサンプルポイントは同一値であっても、平均等に差異が確認されました。
この数値が意味すること。それは「互換性が保証されていない」ということです。
これは本当に恐ろしいことで、ACRにはアップデートによって突如現像結果が変わってしまう可能性が常に存在するのです。しかもキャリブレーションバージョンは変わること無く、です。
挙げ句これは一切の通知も無く行われるため、ユーザーはバージョンアップの度に自ら検証を行い、変化の有無を確認せねばなりません。
4. 結論
サードパーティ製RAW現像ソフトはあくまで互換品。そこを理解した上での運用を心がけるべき。そしてAdobeに期待しすぎないことが肝要。
ACRにR5/6のプロファイルが追加された時、「これで安心」「Lightroom(ACR)でもCanonの色が出せる」「ようやくDPPを使わずに済む」と言ったような、まるでACRが完全互換であるかのような意見が一部で見受けられました。
これは気持ちはわからなくはないものの、実情は前述の通り異なります。私もレビューにおいて「完璧」と評価してしまうことはありますが、それはあくまで”互換品としては”という前提付きであることはご認識下さい。
もちろん多くの人は当然理解の上でかとは思います。ただ意図的か否かは不明なものの、何かこの点について有耶無耶にしているような印象を受けるものがあったため、今回敢えてこのような検証を行いました。
なお、このような事情から全体的にネガティブな論調になってしまったかもしれませんが、私個人としてはACRへのプロファイル(カメラマッチング)追加はポジティブな要素と捉えています。単純に選択肢が増えるという意味はもちろん、最近のCanon機でのAdobeプロファイルには違和感を覚えることも多いためです。
まだ十分な検証は行えていないものの、どちらかと言えばより素直な印象を受ける今回のカメラマッチングには、ベースとしてのより良い可能性を感じています。
そしてACRの互換性について。
Adobeのような長寿アプリを多く抱えるメーカーにユーザーが期待すること。その大きなポイントの1つが互換性ではないでしょうか。当然メーカー側もそんなことは百も承知であり、重要な要素としてきちんと確保している…と、普通ならそう考えるのが自然です。
しかし実際にはこの通り。キャリブレーションのバージョンを変更し切り替えを可能にするわけでもなく、不可逆的な変更を平然と行ってきます。それも極めて短期間に、何の通知も無くです。
これは今回が初めてではありません。EOS Rユーザーであれば記憶に新しいかと思いますが、以前もRシリーズでWB値の扱いが激変(修正)し、以前の現像結果が再現できないということがありました。この時の影響度は極めて大きく、今回のような誤差で片付けられる範疇ではありませんでした。
*参考:EOS R color test - after ACR 11.2
しかもその後R5/6でも類似した修正を実施。もちろんこの時もサイレントアップデートです。
長い年月が経ち互換性が維持できなくなった等であればまだしも、ほんの短期間でコロコロと基準を変更されるのですからたまりません。
もちろん、製品の改良のため予告なく仕様を変更すること自体は何ら問題ありません。
ただ、変更内容が極めて大きくユーザーに多大な影響を与えるものであるにも関わらず、その情報を一切開示しない姿勢には疑念を抱かざるを得ません。
このように、近年のAdobeは自社製品の互換性を軽視していることは明らかで、まるで信頼できる状況ではありません。ユーザーはそのことを把握し、自衛を心がける必要があります。
なお、この互換性問題は最近のCanon機で目立つものの、前述のDC-S5など他社製品でも発生していることは確認済みです。対岸の火事とは思わず、十分に注意した方がいいでしょう。
それにしても、ホント困りますよねこういうの。どうして素直にカメラキャリブレーションを追加(切り替え)するなり、以前の状態も再現できるようにしてくれないのやら。