EOS R SNR test vs α7III
レフ機からミラーレスへ - α7III比でのSNRについて検証する
色再現性の次はEOS RのSNRについて。α7IIIと比較検証してみます。
検証には主に前回の色再現性検証時に同一環境で取得したデータを用い、赤枠で囲った箇所の変化を確認します。
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1. 低感度では変わらず高感度では差が開くJPEG
ではまず撮って出しJPEGから。
両機種共にデフォルト設定に準じるものとし、EOS RのPS(ピクチャースタイル)はStd(Standard:スタンダード)で高感度NR(高感度撮影時のノイズ低減)は標準。レンズ補正は周辺光量補正はon、歪曲補正はoff。DLOに関してはon/off撮り比べてもノイズの出方に明確な差異が見受けられなかったため、デフォルトに準じたonで取得したものを使用します。
α7IIIのCS(クリエイティブスタイル)はStdで高感度NRは標準。レンズ補正は歪曲補正のみoffとしています。
暗部ノイズとディテール比較。
ISO400までは明確な差異があるようには見えません。あえて言えばα7III側のグレーにカラーノイズが見て取れるものの、両機種共に十分クリーンと評することができます。
しかしそれはNRによるものが大きいらしく、ISO800以降になるとEOS Rは塗り潰しがはっきりと表面化。いわゆる「DIGIC塗り絵」状態となり、感度上昇と共にディテール消失が進んでいきます。
対するα7IIIもNRによるディテール消失自体は発生しているものの、EOS Rと比べて明らかに軽度。そして高感度ほどその差異は大きくなっていきます。ISO40000以降の超高感度では特にその差異が顕著となり、完全に崩壊している感のあるEOS Rに対しα7IIIは最後まで粘りを見せている印象。同じデフォルトNR設定でも方向性が大きく異なることがわかります。
2. 概ね1段差のRAW
次にRAWのノイズを比較します。
現像にはACR(Adobe Camera Raw 11.0)を用い、プロファイルはAdobe Color。ディテールタブの設定はAdobeデフォルト値そのままです。カラーNRが0ではなく25(デフォルト)となっている点に留意して下さい。
JPEGとは状況が一変。暗部ノイズでは最低感度から1段程度の差異が見て取れる状況となりました。
その半面、感度上昇と共に加速度的に進んでいたEOS Rのディテール消失は穏やかに。高感度でも機種間の差異が開いていくこともありません。
つまりRAWの時点では概ね1段の差異。それがセンサーの性能差であり、JPEGではNR処理の差異から前述の結果になったと考えるのが妥当でしょう。
以前からCanonは「塗り絵」と称されるほど塗り潰し傾向が強く、ディテールを損なってでもノイズを残さない方向性なのであろうと推察できます。
3. 高感度NRはLowとStdで大きく変化
前項までの検証でEOS Rの撮って出しJPEGは高感度NRの影響が大きく、RAWとは随分と差異があることがわかりました。そこでNR設定を変更し、その差異を確認してみます。
なお本項の検証用データは後日再取得を行ったものであるため、前項までのデータとは若干の差異が生じています。そのため単純比較はできないことにご注意下さい。
まず暗部ノイズ比較。
さすがに元からノイズが少ない最低感度では劇的な差異はないものの、それでもHigh(強め)では明らかにグレー部分に塗り潰しが。そしてISO200以降はLow(弱め)とStd(標準)間の差異が明確に。どうもLowとStdでNRの強さに大きな差異があるらしく、Off(しない)とLow間やStdとHigh間よりも一気にNRが強くなっている印象です。感覚的に言えば1234ではなく1245とでも言いましょうか。1段飛びに塗り潰しが強まっています。
次にディテール比較。
こちらでもISO800以降の差異が顕著。中央から右のStd以上は急激にディテール消失が進むのに対し、左のLow以下は1段程度塗り潰しが弱まっている印象。やはりNRを弱めることでノイズ自体は増えるものの、ディテール消失を抑えることが可能なようです。
このディテールの変化は実写ではどのような差異をもたらすのか。猫(ミータ, 雄, 撮影時4歳7ヶ月, 体重5.3kg)を被写体としそれを確認してみます。
データのPSはFD(Fine detail:ディテール重視)。感度はISO3200と6400。個人的に最近のフルサイズ機で常用できる上限と感じている領域で取得しました。
赤枠部分を等倍で切り出したもの。
やはりこうして見てもStdからNRが強くなっており、毛皮のディテール消失が一気に進んでいることがわかります。こうなるとリアリティも薄れ始め、「写真」から「絵」的な描写に。
そしてその傾向はどちらの感度でも変わらないものの、ISO6400の方がより塗り潰しが強い。つまりJPEGの項目でも述べた通り、感度が上がるほどNRも強くなっているということでしょう。
この差異は縮小した場合でも残るようなものなのか。それとも3030万画素をフルサイズで等倍鑑賞でもしない限り意味のないものなのか。
それを確認するため、私がSNSでよく使っている1辺1280px(約19%)まで縮小(Photoshop使用:再サンプル/バイキュービック滑らかなグラデーション)したものでも確認してみます。
なおHatenaBlogの仕様上、上記画像は1辺1024pxまで縮小したものですのでご注意下さい。
縮小後に赤枠部分を等倍で切り出したもの。
縮小による圧縮効果で差異も縮まり、ディテール消失も等倍鑑賞時に比べ随分と緩やかなものとなりました。
しかし、それでもやはりLowとStdの間で塗り潰しが進んでいることは明確で、特にISO6400ではそれが顕著。これだけ縮小しても完全に差異が残ることから、多くの場合で無視できない影響が出ると考えられます。
//181129追記
DPPの輝度ノイズ緩和(Luminance NR:LNR)値一覧。
あくまでDPP上での値ではありますが、こちらでもLowとStdの間に大きな開きがあることが確認できました。前述の通り実際の描写とも一致していることから、参考値として妥当なものと判断できます。
4. ネックとなるカラーノイズ
ではNR設定を下げればディテールも維持されα7III並の描写が得られるのかと言えば、そうは上手く行きません。それはカラーノイズがネックとなるからです。
赤枠部分を等倍で切り出したもの。上段がJPEG、下段がACRで現像したRAW。
JPEG側は明らかにカラーノイズが目立つことがわかります。エアコンや天井のような単色(ベタ)系の部分がまだらに、そして猫の輪郭にも明らかに不自然な色付きが。ACR側と比較するとその差は明らかです。
さすがに猫の輪郭部分のような複雑なパターンの中にあるものは縮小すればかき消されるものの、ベタ部分は1辺1024pxまで縮小した画像でも影響が残ってしまいます。
この原因はボディのNRにあります。どうもEOS RのNRはカラーノイズ除去(Color NR:CNR)が弱いらしく、NR設定を変更してもカラーノイズはほとんど変化が無いのです。NR設定はあくまでLNRの値であって、CNRの強さは一定である可能性もありそうです。
//181129追記
DPPの色ノイズ緩和(CNR)値を確認しました(後述)。
なぜCNRが弱いのかは不明です。単純にCanonのNRアルゴリズムのクオリティが低かったり、処理速度的な問題かもしれませんし、CNRの影響で元の色情報が欠落することを最小限に抑えたかったのかもしれません。上記画像でもACRデフォルトの25ではCNRが強すぎ、明らかに褪色感が出てしまっています。EOS RのISO6400であれば10~20辺りが適切な範囲でしょう。
ただACRの結果を見るに、色は残しつつももう少しカラーノイズを抑えることは可能だったのではないかという印象は拭えません。LNRとCNR、それぞれ別々に設定できたら良かったのにと思ってしまいます。
//181129追記
DPPのCNR値一覧。
こちらもあくまでDPP上での値ではあるものの、感度上昇と共にCNRの値も大きくなっていることが確認できました。
しかしその一方で、LNRのようにLowとStdに大きな隔たりはありません。特にISO6400ではOffからHighまでの差異が1.4以内に収まっており、これが前述のグレー部分で大きな差異が生じていない原因と考えられそうです。
DPPのNR設定項目。
DPPではこうして個別にNRを設定することが可能であり、調整することで前述のカラーノイズを抑えることも可能でした。
しかしボディ側では一括設定しかできません。この点については今後改善を期待したいところです。
5. 結論
RAWは概ね1段差。JPEGはNRの影響で低感度では大差無く、感度上昇と共に差が開く。NR設定でディテール消失を抑えることは可能だが、被写体によってはカラーノイズがネックなる場合も。それを許容するか、無難にα7IIIから常用感度限界を1段落とすか。どちらを選ぶかはユーザー次第。
天井にカラーノイズムラ。やはりこの感度でこの被写体だと厳しいか。
予想通りと言うか事前のデータ通りと言うべきか。素の状態(RAW)では概ね1段差という結果になりました。これは5D4(EOS 5D mk4)と同等のセンサーという時点で想定できたことです。
ただ、JPEGでは低感度ならほとんど変わらなかったり、高感度でもNRさえ弱めればディテールが引き出せること。これはデフォルト設定のデータからだけでは予想できず、個人的には意外な結果となりました。最低感度でも圧倒的塗り絵だったEOS M2(オンチップADC化以前のセンサー搭載)とは別次元の描写であり、Canon機の撮って出しでこれだけのディテールを得られることに驚きです。
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この変化はEOS M5でも確認でき、やはり新世代センサー搭載機のSNRは大きく改善されていることがわかります。そしてフルサイズセンサーを搭載するEOS Rは現時点で最良の1つと考えていいでしょう。
とは言えそれはあくまでCanonの中での話。α7IIIとの間には明確な差異が存在し、決して同等などとは言えません。さすが最新の裏面型CMOSセンサー搭載機。高感度SNRは明らかにα7IIIが優れています。
画素数自体はEOS Rの方が多いため、同じ解像度に揃えた場合は圧縮効果に差異が生じます。しかし3030万画素(6720x4480px)と2420万画素(6000x4000px)ではさすがに明確な差異は無く、実際に試した限りほとんど誤差レベル。それも込みで概ね1段が両機種の差異と評価できます。
とは言えこれはEOS Rが劣っていると言うよりも、2018年末現在トップクラスのSNRを誇るα7IIIが優れていると評するのが正しいかもしれません。
そして前回同様注意して欲しいことは、これはあくまで「高感度SNR」に限った上での評価ということ。前回の「色」で述べた通り、最新のα7IIIも万能ではありません。低感度での色再現性やハイライトの描写など、むしろ旧型センサーの前機種の方が優れた面を見せる場面もあります。
それはこのEOS Rにも言えること。色再現性の面ではα7IIIを上回る性能を見せたものの、今回の高感度SNRでは明らかに及ばない結果となりました。
結局のところ、同じ時代の製品に劇的な性能差が存在するわけもなく、ほぼ同じ持ち点をどのようなバランスで割り振ったかの差でしかないということかもしれません。
「色」と「高感度」。前者を取るならEOS R。後者を取るならα7IIIがベターな選択肢となりそうです。
//181129
項目3と4にDPP上のLNR/CNR値と設定について追記
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