snowfallのメモ帳

趣味に関することなどを適当に綴る備忘録兼用のメモ帳

EOS M2 resolution test

EOS M2の解像度に関する総論

  1. 圧倒的なまでの塗り絵
  2. RAWの時点では解像している
  3. 撮って出しJPEGの塗り絵はDIGICの伝統
  4. なぜ塗り潰すのか
  5. 副作用か効能か
  6. 実用上あまり問題にならない塗り絵
  7. M2撮って出しJPEGの落とし穴
  8. 結論

前回色再現に関しては素晴らしい結果を出したEOS M2(M2)。次はその解像度(とJPEGについて)を検証します。

 

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検証に用いるのはいつもの被写体。そしていつものSFCロゴで確認します。

光源はLED電球(東芝キレイ色:LDA9N-D-G)、WBはマクベスのWBカードでのプリセット。露出は背景の銀一グレーカード(旧)で取っています。

 *参考:照明器具とその演色性(スペクトグラム) / 佐々木ヴァイオリン製作工房

レンズはEF-M18-55mm F3.5-5.6 IS STMで焦点距離34mm(35mm換算時54mm)、絞りはF8.0。ボディのレンズ光学補正は周辺光量/色収差共にon、RAW+JPEGで撮影しPS(ピクチャースタイル)はFF(忠実再生)。ACR(9.5)現像時はPSと条件を揃えるためシャープ適用量0、レンズ補正は色収差だけonとしています。

検証時の色空間はAdobeRGBですがこのページに貼り付けてあるものはブラウザでの表示を考慮しsRGBに変換してあります。

 *関連記事:EOS M2 color test vs D750 & K-5IIs

 

1. 圧倒的なまでの塗り絵

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左上のスキャナ(2400dpi)で取り込み縮小したものを基準とし、その差異を確認します。差異を際立たせるため数倍に拡大(ニアレストネイバー)しており、カメラ側の拡大率は300%です。

なんと、M2の撮って出しJPEGは全くと言っていいレベルで解像していません。2432画素のD750はまだしも1628万画素のK-5IIsにも遠く及ばず、網点がほぼ完全に塗り潰されています。1790万画素というスペックに全く見合わない低解像度っぷりで、K-5IIsがローパスレスだから云々というレベルではありません。

 

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これはどの程度の解像度(画素数)に相当するのか。試しにD750のJPEGを40%に縮小(バイキュービック滑らかなグラデーション)してみたところ、大体似たような潰れっぷりになりました。このやり方が正しいかは微妙なものの、2432万画素の40%なので大体973万画素相当でしょうか?

ちなみに50%縮小だとまだM2よりもディテールが残っちゃいます。

 

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これは以前使用していたK10DD300のRAWをACR(シャープ0)で現像したもの。画角が揃っていないため単純に比較はできないものの、確かにこうして見ても1000万画素程度な印象。つまり、1790万画素の60%(1074万画素)程度しか解像度を有していないことに?

 

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レンズが足を引っ張っている…のではありません。このレンズは最近のキットレンズなだけに侮れない性能を有し、絞ればきちんと解像します。この画像でもモアレが出ていることからセンサー解像度を上回っていることは明らかです。

 

www.dxomark.com

つまりこの塗り絵(低解像度)の原因はレンズではなく、ボディ側にあります。

 

2. RAWの時点では解像している

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ではボディのどの時点で解像度が損なわれているのか。それを確認するためにRAWから現像してみたものがこちら。

これを見ると明らかにM2のJPEGとRAWには解像度の差異があり、ACRはもちろんDPP(Digital Photo Professional 4.3.31.0)でも撮って出しJPEGとは網点のディテール消失が随分と異なります。他機種とACR同士で比較すると概ねK-5IIsに近く、画素数相応の解像度だと言えそうですね。

 

そしてRAWの時点では無かったということは、塗り絵になるのはこの後ボディ内でJPEGに現像される時だということです。

 

3. 撮って出しJPEGの塗り絵はDIGICの伝統

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実はこの塗り絵、今に始まったことではありません。これは2006年に発売されたEOS 30DのRAWをACRで現像したもの。それを同時記録のJPEGと比較してみると…

 

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どうでしょうこのベタベタの塗り絵っぷり。見事に細部のディテールが消失しています。30Dは820万画素ですから、その60%相当だとするなら492万画素程度の解像度しか有していないということに。当時このべったべたの描写に気持ち悪くなってしまい、その後全くJPEGは使わなくなりました。そしてCanonを止める理由の一つにもなったと記憶しています。

 

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こちらは2005年に発売されたEOS 5D

 

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やはり塗り潰されディテールが消失していることがはっきりとわかります。5Dは1230万画素ですから738万画素程度といったところでしょうか?

 

30D/5Dの処理エンジンはDIGIC II、M2はDIGIC 5と世代の開きはあるものの、方向性(塗り絵)は一貫しているってことみたいです。最早伝統芸ですね。

 

4. なぜ塗り潰すのか

RAWには十分な情報量を持っているのになぜ塗り潰してしまうのか。それは恐らくノイズ対策のためでしょう。

 

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ディテールを消失させる塗り絵はノイズに対しても有効で、このようにM2の撮って出しJPEGはRAWに比べノイズの粒子感も軽減されています。逆にシャープ処理が入るDLO(Digital Lens Optimizer)はノイズも際立ってしまっていますね。このような低感度(ISO100)であってもノイジーであることを隠すため、強めの塗り潰しを行っているのだろうと推測できます。

しかしそんな塗り潰しのJPEGでもカラーノイズは消せていなかったりと、元々ノイズが多いことによる弊害は隠しきれていません。そして驚異的に低ノイズなD750比はもちろん、K-5IIs比でもまるで勝負になっていません。

こういうの見るとCanonは光量が確保できるスタジオなら綺麗に撮れる(逆に言えば光量不足だとダメ)との説もなるほどなぁって感じが。確かに暗いと暗部がドロッドロになってく感じありますもんねぇ。

 

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実はこの暗部のSNRの悪さは10年前から変わっていません。これがCanon機のDレンジが低感度で頭打ちになる原因となり続けており、M2などむしろ悪化しているくらいです。

これはセンサーがオンチップA/Dではないことによる限界というのが通説で、今年発売された80Dでは一気に改善されたことからもその可能性は高そうですね。

しかし2016年以降の製品では改善の兆しは見えるものの、今まで10年以上はこのノイジーなセンサーを使わなければならなかったわけですから、デフォルトで塗り潰すのも納得です。

 

ちなみに「高感度撮影時のノイズ低減」は低感度でも作用しており、例えISO100でもNRがかかります。そのためoffにすると極わずかながらも塗り潰しが軽減できます。でもホントにちょっぴりだけですし、JPEGの用途考えるとonでいいかな~って思いますけどね。

 *参考:キヤノン「EOS 7D」実写画像&ライバルとの画質比較 - デジカメWatch

 

5. 副作用か効能か

単純に解像度で見た場合は最悪でしかない塗り絵処理。しかしこれには思わぬ効果があります。

 

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RAWに対しこのJPEGの滑らかさ、まるでスムージング処理でも行ったかのよう。自撮りアプリの美肌効果みたいですね。

これを副作用と見るか効能と見るか、意見は分かれるところでしょう。しかしこの塗り潰しによる現実よりも滑らかな描写。恐らくはこれがポートレートCanonが向くと言われる理由の一つなのでしょう。人物を撮るなら毛穴が解像しているよりも肌が綺麗な方が受けるに決まってますし。まるで鶏が先か卵が先か状態ですけれど、Canonの個性(絵作り)を構成する大きな要因になっているのは間違いありません。

 

しかしイラストでも美肌効果が確認できるとは…最初見た時大笑いしちゃいましたよ。

 

6. 実用上あまり問題にならない塗り絵

率直に言えばCanonの撮って出しJPEGの解像度は最悪。場合によっては画素数の60%程度しか実解像できないゴミです。風景のような解像度が求められるシーンには全く向かないでしょう。

ただし、これはあくまでJPEGの話であってRAWは別。更に言えばJPEGでも等倍、もしくは縮小率が低い場合の話です。

 

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当然ながら等倍であればその差異は明らか。しかし50%に縮小した時点でその差は一気に縮まり、33%では既に誤差の範疇。25%になるともう言われなければ解像度の差異には気付けないレベルになりました。縮小によるディテールの消失。これによって元来存在したはずの差異も収束していき、最終的には消失してしまうわけです。

そして撮って出しJPEGとはどの程度の解像度で使用されるものなのか。フル解像度の最高品質で大きく印刷したりwebに上げたり…するならRAW使いますよね普通に考えて。PCの性能が劇的に向上した今、レギュレーションでRAWが使用不可なんて状況でもない限りわざわざJPEGなんて使いません。普通にRAWから最高品質の出力を得ればいいだけです。

 

ではどのような場合にJPEGを使うのかとなれば、やっぱりお手軽に使いたいって時ですよね。例えばちょっと印刷したいとか、SNSで使いたいみたいな。スマホコンデジじゃ満足できないけど、アプリ使ってRAW現像するまでじゃないみたいな時。そういうお手軽用途こそJPEGの利便性が最も生かされる使い方でしょう。

ならばそのお手軽用途にはどの程度の解像度が必要なのか。写真ではメジャーどころのキタムラでは普通の写真サイズ(L版)だと1524x1074(300dpi)、SNStwitterやこのHatenaBlogだと長辺1024px程度でしょうか。

 *参考:デジカメプリントの最適な画素数を教えてください。 - カメラのキタムラ

 

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各カメラの画素数とリサイズ後の解像度。

こうして見ると1600万画素以上あれば33%まで縮小してもL版に対応でき、SNS用途なら25%以下でも問題ないことがわかります。特に2432万画素のD750は圧巻で、25%まで縮小しても短辺が4桁切りませんでした。

逆に820万画素の30Dは50%の時点ではL版対応できているものの、33%になるとSNS用途すら厳しい状況に。あまり縮小できないことからリサイズによる塗り潰しの弊害軽減やノイズ軽減効果が期待できず、最終的な出力品質を上げることが難しい。実は最近私があまり高画素化に否定的でない理由の一つがこれだったりもします。

 

このように撮って出しJPEGの塗り絵による弊害(ディテール消失)は実使用時には誤差の範疇に収束してしまい、問題になる場合は少ないと考えちゃっていいんじゃないですかね~。

 

7. M2撮って出しJPEGの落とし穴

そんな感じで塗り絵も実用上あまり問題にならず、色に関しても自在にカスタマイズ可能なM2のJPEG。まさに万能…かと思いきや、意外なところに落とし穴がありました。

 

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 実はこのM2、レンズ光学補正に歪曲収差補正が無いんです。つまりレンズの歪みは補正されることなくJPEGに反映されてしまう。歪みの少ない単焦点や高性能ズームはまだしも、普通のズームレンズとなると…

 

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今回のEF-M18-55mm F3.5-5.6 IS STMもワイド端での歪みはかなり大きく、じっと見ているとなんだか三半規管が狂ってくるような気持ち悪さがあります。これは実際に撮影した画像を見ていてもです。特に補正されたものと交互に切り替えるとその差異は明らかで、無補正は不自然なのに対し補正後はホッとするというか、自然で安心できる感じです。

もちろんJPEGでもPS(Photoshop)で補正することは可能です。しかし、アプリ使って補正作業するならもうRAWからでいいんじゃ?って感じになっちゃいますよね。JPEGの利便性は大きく損なわれると言わざるを得ません。

 

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Canon現行エントリーモデルの状況。2013年発売でDIGIC 5のM2に補正機能が無いのは仕方ないかもしれません。しかし、2015年発売でDIGIC 6のM10やM3にも無いのはなぜなのか。DIGIC 6で処理能力が上がったからできるようになった、なんて言ってたにも関わらず、です。

 *参考:インタビュー:キヤノン「EOS 7D Mark II」の大進化に迫る - デジカメ Watch

そして2016年発売のX80も無しというのがまた凄い。ちなみにNikonは現行ローエンドのD3300はもちろん、2010年発売のD3100の時点で搭載済みです。

 *参考:ニコンD3100 - デジカメWatch

なぜこんなことをしているのか。やはり差別化のためと考えるのが妥当でしょう。これはCanonの得意技で「できるけどやらない」ことに関しては並ぶものがないと個人的には感じています。

 

ともあれ、便利に使えてこそのJPEGで歪曲補正が使えないなど片手落ちもいいところ。せっかくの利点も台無しです。

 

8. 結論

撮って出しの塗り絵は健在。ただしRAWなら画素数相応の解像度を有する。高画素化と相まって用途に応じて使い分けやすい時代に。

 

以前から塗り絵には美肌効果など思わぬ効果があることはわかっていたものの、それと引き換えにディテールを失ってしまうため使いどころが限られるという面もありました。画素数が少ない時代は縮小による効果もあまり期待できなかったからです。

しかし1800万画素以上が当たり前になった現在、縮小率を上げても十分な解像度を確保できるようになり、利用できる幅が大きく広がったのは間違いありません。

さらにRAWを取り巻く環境、特に現像に用いるPCの性能向上が目覚ましく、今やRAW現像の敷居は極めて低くなったと言えるでしょう。そのため手軽な用途にはJPEG、品質を重視する場合はRAWを選択するという使い分けが簡単にできるようになりました。そしてこの点に関してもCanonPSE(Picture Style Editor)やDPPを提供したりと抜きん出ています。

このような状況も考慮すると、むしろRAWとJPEGで方向性の異なるCanonは使い勝手が良いと言えるかもしれませんね。どちらも同じ方向性でJPEGはRAWの下位互換でしかない場合、上位互換のRAWがあればJPEGの存在意義は無くなってしまいますし。どちらも使い道があるというのは強みです。

ただ、今年発売となる1D X Mark IIではボディ内DLOが可能だったりと、撮って出しJPEGに高い解像度を求める向きもあるのも間違いないようです。センサーのノイズ問題も一山越えたようですし、今後は状況が変わることもあるかもしれませんね。

 

とまぁ、ちょっと好意的に解釈し過ぎじゃないの?って自分でも思わなくもない内容になっちゃいましたけど、昔と違って今のCanonは随分とRAWとJPEGの使い勝手が良くなってるんじゃないかなってのが素直な感想です。

でも、その美点を損なう手抜き(差別化)は相変わらずだなぁって感じですけど。なんでこうやって台無しにしちゃうんでしょうね。ホント、勿体無い。

 

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