snowfallのメモ帳

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Sh50Pro-S & LDA9N-D-G spectrum test

Sh50Pro-SとLDA9N-D-G - 分光分布から2本のLED光源を比較する

  1. Sh50Pro-S & LDA9N-D-G
  2. Sh50Pro-S & FL20S・N-EDL・NU
  3. 演色性以外の差異
  4. 結論

039ブランドのSh50Pro-S。分光分布から今まで用いてきたLDA9N-D-Gとの差異を検証してみます。

 

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このSh50Pro-Sは2017年末に発売された撮影用LEDライトであり、カタログ上の演色評価数(CRI)はRa95以上と公称Ra90の東芝キレイ色(LDA9N-D-G)を上回る数値。ショップによる測定でも優秀な結果を示し、実際に演色性が高いことがわかります。

 *参考:話題の高演色LED電球「039|Sh50Pro」をスペクトロマスターC-700で測ってみた | 使える機材 Blog!

しかしLDA9N-D-Gも実測ではRa95を上回ったとのデータもあることから、これだけでは必ずしもSh50Pro-Sの方が優れるとは断定できません。

 *参考:照明器具とその演色性(スペクトグラム) / 佐々木ヴァイオリン製作工房

そこでLighting Infoと手持ちのキャリブレーター(GretagMacbeth Eye-One Pro)を用いて分光分布を測定。結果を比較検証してみました。

 *参考:Download - Lighting Info

 

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ただ、当方の環境と相性が悪いのかLighting Infoが完全には動作せず、測定結果を保存することができませんでした。そのため実行中の画面をキャプチャしたものを用います。

 

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また、恐らくはEye-One Proの補正によるものと思われる700nm付近のカットが入る模様。本来連続しているはずの太陽光と白熱球で680nm付近から急激に減衰し0.0に達した後、あり得ない値まで跳ね上がっているのはそのためと考えられます。そのため正確な分布は把握できないものの、既存のデータと比較すると680nm付近の減衰開始位置から跳ね返りピークの6割程度の位置に繋がっていると考えるのが妥当と思われます。

残念ながら専用の分光器を用いていないためデータの精度自体は低いものの、同一測定環境にて取得したデータ同士であれば相対的に比較は可能と判断しました。

 

1. Sh50Pro-S & LDA9N-D-G

ではSh50Pro-SとLDA9N-D-Gから見ていきます。
まずはそれぞれの個別データ。そして最後はSh50Pro-SにLDA9N-D-Gを重ねたものです。

 

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どちらもLEDだけあってか類似性はあるものの、Sh50Pro-Sの分布がより広くなっており、特にピークの波長が短いことが見て取れます。700nm付近の減衰カーブも開始位置が高く、かつ跳ね上がりも大きいことからこの付近の分布もLDA9N-D-Gより優れていると推測できます。

つまりLDA9N-D-Gの分布をより平坦化し横に広げたような状態になっていると考えられ、演色性は向上していると判断できます。
そしてこの測定結果を見るに、エコリカのECL-LD4EGN-L3Aに近い特性を持つと考えられそうです。

*参考
 :直管形LEDランプ 直結専用(高出力タイプ・省電力タイプ) 特徴・ラインナップ | エコリカLED
 :印刷所並みの超高演色LEDを電気工事なしで自宅に導入!ロマン溢れる方法をまとめたよ | studio9

 

2. Sh50Pro-S & FL20S・N-EDL・NU

次にPanasonicの美術・博物館用蛍光灯(FL20S・N-EDL・NU)を見てみます。
これは所謂色評価用蛍光灯の一種で、カタログ上のCRIはRa99です。

 

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ある意味見慣れた分布と言ったところでしょうか。紫外線吸収膜でカバーされているためか400nm付近のピークが存在しません。

 

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Sh50Pro-SにFL20S・N-EDL・NUを重ねたもの。
こうして見るとSh50Pro-Sを更に平坦化したものがFL20S・N-EDL・NUと評価できそうです。450nm付近のピークはより短く、700nm付近の減衰カーブ開始位置もより高く跳ね返りも大きい。つまりSh50Pro-Sよりも更に広く分布しており、演色性に優れると判断できます。
測定結果のRa値自体はSh50Pro-Sの方が若干高くなっているものの、この値は同一光源であっても変動しやすいためそのまま比較できません。逆に分布は一貫性があるため相対的に比較は可能と判断しています。

 

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最後にSh50Pro-SにLDA9N-D-GとFL20S・N-EDL・NUを重ねたもの。
こうして見るとその差は一目瞭然。LDA9N-D-G、Sh50Pro-S、FL20S・N-EDL・NUの順に分布が平坦化し広がっており、演色性もそれに応じて改善していくと判断することができます。つまりSh50Pro-SはLDA9N-D-Gよりも演色性に優れるものの、FL20S・N-EDL・NUには若干及ばないと評価するのが妥当でしょう。

 

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ただ、例え色評価用であっても蛍光灯の宿命とも言える540nm付近のピーク、所謂グリーンスパイクは存在します。これは他社の製品であっても同様で、これに起因する緑被りが避けられません。そのためCRI(Ra/Ri)の数値自体は色評価用の方が優れていると考えられるものの、撮影用光源としては補正が必要になってくる可能性があることは把握しておく必要があります。

 

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なお、同じ色評価用であっても実際はメーカー毎に癖があり、色味にも差異が生じます。個人的な使用経験からはPanasonicが最もニュートラル、三菱オスラムが緑被り強めといった印象です。

色評価用蛍光灯は直管形状のため天井照明やデスクライト、色見台などには適していても撮影用としては小回りが利きません。また、他の光源に比べ点灯から輝度が安定するまで時間を要する性質から常時点灯用途向けです。そもそも蛍光灯は生産終了が進んでおり、色評価用も選択肢が狭まってきました。既存機材の保守用としてならともかく、新たに導入するに適した選択肢とは言い難いと思われます。

 

3. 演色性以外の差異

演色性に関してはSh50Pro-SがLDA9N-D-Gよりも優れていると判断できることがわかりました。ではそれ以外の面ではどうなのか。実際に使用する上で関係してくると考えられる項目について比較してみます。

 

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・全光束
これはSh50Pro-Sが圧倒的でLDA9N-D-Gの約6.8倍。まさに大光量と言った感じで誰が見てもその差は明らか。単純に同一セッティングで差し替えた場合は全くバランスが取れない可能性が高いため、完全に異なる光源として扱う必要があります。

色温度
これはスペック通りにSh50Pro-Sの方が高く、カメラのカスタムWBで取得した場合も500K程度の差異が発生します。太陽光に近いのもSh50Pro-Sの方です。

次に消費電力
これは当然ながらSh50Pro-Sの方が大きく、LDA9N-D-Gの約5.7倍。白熱球に対応しているソケットであれば問題無い可能性は高いものの、最近のLED電球前提のものは容量が小さいこともあるので注意が必要です。

・質量
LDA9N-D-Gの165gも一般用LED電球としては重い方かと思いますが、Sh50Pro-Sは380gとその2.3倍。手にしてもしっかりと重量を感じる程で、灯具によっては耐えられない可能性があります。

・サイズ
これもSh50Pro-Sの方が圧倒的に大きく、電球と呼べるようなものではありません。それも首の部分から太いため、LDA9N-D-Gのように電球が取り付けられる灯具なら大抵okとは行きません。実質撮影用のソケット専用と考えた方が無難でしょう。

・動作音
LDA9N-D-Gはファンレスなので無音。対してSh50Pro-Sは冷却ファンが常時回転しているため常に動作音が発生します。とは言えそこまで大きな音ではありませんが、動画撮影などノイズが問題になる場面では考慮しておく必要があります。

・価格
2018年10月現在、 Sh50Pro-Sの販売価格(Amazon)は7776円とLDA9N-D-Gの約10倍。LDA9N-D-Gが1500円以上した時期ならばともかく、1本745円で手に入るようになった今となっては圧倒的な差です。手軽さという面ではLDA9N-D-Gが非常に優れていると言えるでしょう。
ただし、Sh50Pro-S並の光量を得ようとすれば複数本を用いねばならず、それに対応できる灯具を揃える費用が別途発生することは注意が必要です。

・形状
Sh50Pro-Sは一部で「撮影用LED電球」と表記されていますが、実際はLED「アイランプ」が正しいでしょう。あくまでLED「電球」のLDA9N-D-Gと同じようには扱えません。アイランプであると考えれば光量に消費電力、サイズなども受け入れやすいのではないかと思います。

 

4. 結論

演色性はSh50Pro-Sの方が優れる。ただしメリット・デメリットも考慮した上で用途に合ったものを選択する必要あり。

 

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単純に演色性の面だけ見ればSh50Pro-Sは非常に優秀で、グリーンスパイクもないことから撮影用としては色評価用蛍光灯よりも適していると評価できるかもしれません。
しかし大きく重く、価格も高いと手軽さの面ではLDA9N-D-Gの方が圧倒的。演色性も比較すれば劣りはするものの、決して悪いわけではありません。

 

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ここでその他LEDの測定結果を見てみましょう。
LDA8N-Gは同じ東芝製のLED電球ですが、この通りまるでお話になりません。電球色のPanasonic LDA10L-G/Z60/Wであってもこの程度です。
最後のLDA6L-D-H-E17/SはLDA9N-D-Gと同じキレイ色シリーズだけのことはあり、他の2本とは別格。やはりこのシリーズは一般用向けLED電球としては特出した演色性を有していることがわかります。価格も安く、手軽に導入できるLDA9N-D-Gは撮影用光源として悪くない選択肢と言えるでしょう。

 

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その一方で、演色性だけでなく光量を含めた撮影用光源としての絶対的な性能はSh50Pro-Sが上回っていることも間違いありません。直管タイプのECL-LD4EGN-L3Aと異なり、ソケットタイプなためアンブレラやソフトボックス等の灯具にも組み込みやすく、自由度の高い配置が可能です。
そして光量はまさにアイランプのそれ。1灯でLDA9N-D-Gとは比較にならない大光量を得ることができます。それでいて寿命はアイランプよりも圧倒的に長く、発熱も少ないことから火傷の心配もありません。より良い撮影用のLED光源を求めるのであれば、多少高コストにはなるものの選択する価値は十分にあります。

 

私は少し前から検証用光源はSh50Pro-Sに切り替えており、最近公開したカスタムプロファイルもこの光源で作成しています。今後の各種検証もこの光源を用いて行う予定です。
ただ、それはあくまで色再現性などの検証を目的としているからです。高演色=必ずしも好ましい色になるわけでありません。色評価用蛍光灯のように演色性は高くとも緑被りが起こったり、580nm付近を抑えたLDA9N-D-GはCRIの数値以上に肌のトーンが好ましく感じる場合があり、その方が「写真」としては悪かったり良かったりする可能性があることは把握しておく必要があります。
何を目的とした光源なのか。用途をしっかり定めた上で、それに適した光源を選択すればベストな結果を得られることでしょう。

 

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