EOS M2 color test vs D750 & K-5IIs
D750/K-5IIs比でのEOS M2色再現性に関する総論
- 概ね優秀だがGに弱点あり?
- DPP現像時の差異は誤差の範疇ではあるがNX-D程ではない
- ACR Canon用プロファイルの再現性も悪くはないがNikon程ではない
- ColorChecker Passportで機種間の差異は縮まるが傾向は異なる?
- DNG Profile Editorは手動調整で更なる追い込みが可能
- Picture Style EditorはDNG Profile Editorよりも容易に追い込みが可能
- 結論
コンデジを除けば久々のCanon機となるEOS M2(M2)。今回はまず色再現性から検証してみます。
検証に用いるのはいつもの被写体。ただし今回は背景や光の取り回しが前回とは異なり、ディフューザーなど用いることでより光が均等に回るようセッティングしてみました。他にも黒締めを行うことで表紙の白浮きを抑えたり、概ねD750検証時よりデータの品質は上げられたんじゃないかな~と。
それ以外は以前と変わらず、この8箇所(DLは確認用)の色相の値と理想値との差異を確認します。
光源はLED電球(東芝キレイ色:LDA9N-D-G)、WBはマクベスのWBカードでのプリセット。露出は背景の銀一グレーカード(旧)で取っています。
*参考:照明器具とその演色性(スペクトグラム) / 佐々木ヴァイオリン製作工房
レンズはそれぞれ異なりM2はEF-M18-55mm F3.5-5.6 IS STMで焦点距離34mm(35mm換算時54mm)、D750はNikon AF-S NIKKOR 24-120mm f/4G ED VRで焦点距離50mm、K-5IIsはTAMRON SP AF28-75mm F/2.8 XR Diで焦点距離は33mm(35mm換算時49mm)で大体画角が揃うようにしました。絞りはどれもF8.0です。
検証時の色空間はAdobeRGBですがこのページに貼り付けてあるものはブラウザでの表示を考慮しsRGBに変換してあります。
*関連記事:D750 color test vs K-5IIs
1. 概ね優秀だがGに弱点あり?
ではまず撮って出しJPEGの各PS(ピクチャースタイル)とACR(9.1.1)の値から見ていきましょう。
Faithful(FF)を見るとGを除けば最大でも3度以内と非常に優秀。最大のGでも8度と一桁以内。Adobe Standardの値も使いやすそうな感じですね。
ただ、他が優秀なだけにGだけ特出してしまっている印象も。CanonのPSは緑が弱く、風景に向かないとの説もあるようです。ひょっとするとこの辺りが関係しているのかもしれません。緑がプラスに転べば黄緑になってしまい、深みのある葉の色を出すのは難しくなりそうですし。
また個人的に興味深いと感じたのが、PSによって傾向が全く異なること。どのPC(ピクチャーコントロール)もRがプラスに大きくずれるもののYは最大でも2度しかずれなかったD750とはまるで真逆。ひょっとするとNikonは標準比視感度を考慮しYの再現性を重視してたりするのかも?
そして同一環境で取得したD750/K-5IIsとの比較がこちら。
最大4度以内に収まっているK-5IIsには及ばないものの、最大10度、そのあとも9度7度と続くD750とは雲泥の差がありますね。
チャートで見てもこの通り。M2のFFとK-5IIsのNLはRがしっかり赤してますね~。うーん素晴らしい! Adobe Standard(ASD)になると若干朱転びが見え始めるもののそれでもD750よりはいい感じです。
ただ、やはりプラスに8度もずれているGに関しては違和感ありでしょうか? ここに関しては3度に収まっているACRとK-5IIsの方がリアリティがあります。結局マイナス側に7度ずれてしまっているD750は…ホント、Yくらいしか褒めるところがありません…
しかし露出も面白いくらいに違いますね。K-5IIsに比べオーバーになるD750に慣れてきたところでM2を使うと今度はアンダーでビックリします。
全体像。こうして見てもFFの自然さは良い感じ。ACRの露出が明るくなるのはいつものことって感じでしょうか。そしてD750のRはやっぱりこのサイズでもって感じですね~。このNikonのトーン自体は嫌いじゃないんですが…
2. DPP現像時の差異は誤差の範疇ではあるがNX-D程ではない
次にDPP(Digital Photo Professional)と撮って出しJPEGの差異を確認してみましょう。果たして純正ソフトはどの程度カメラの色味を再現できているのか。
一箇所を除けば2度以内に収まっており、誤差の範疇と言える程度の差異しかありませんでした。十分優秀と言っていいとは思います。
ただ、D750検証時のNX-Dは一箇所2度があったことを除けば1度以内でした。それを考慮すると若干見劣り感が無きにしも非ずといったところでしょうか?
また、後述しますがPicture Style Editor(PSE)でカスタムPSを作成する際にはこの差異を把握しておく必要があるでしょう。
こうして見る限りはほとんど同じですね(リンク先にオリジナルサイズあり)。
3. ACR Canon用プロファイルの再現性も悪くはないがNikon程ではない
続いてACRのCanon用カメラプロファイル(カメラマッチング)を確認してみます。D750で確認したNikon用は優秀でしたがこちらはどうか。
目立つ4の数値。社外品であることを考慮すれば悪いわけではないでしょう。しかし2度以内に収まっていたNikonと比べてしまうと…といった感じですね。
そしてGに最大値が集まっていることも興味深い。撮って出しJPEGのFFでもGが最大の差異を示したことを含め、何かあるのかもしれません。
このサイズで並べちゃうとんんん、違うっちゃ違うかな?ってレベルですかね~(リンク先にオリジナルサイズあり)。
4. ColorChecker Passportで機種間の差異は縮まるが傾向は異なる?
次はColorChecker Passport(CCP)を用いてACR用のプロファイルを作成してみましょう。
*参考:ColorChecker Passport - Camera & Image Calibration: X-Rite Photo & Video
前回は機種間の差異が1度以内に収まるという素晴らしい結果でしたが果たして今回はどうなるか。
まずはチャートから。やはり効果は大きく素の状態とはまるで別物。ここだけでどれがどの機種かを言い当てることは難しそうです。
ただ、この画像はsRGB化によって差異がわかりづらくなっていますが…
実は数値で見るとこの通り。前回ほど揃っているわけではありません。
また個人的に気になるのがM2のR。ここだけは他の2機種と傾向が異なっている印象です。このM2だけで断定することはできないものの、Gが揃った代わりにRがずれたような印象もあり、少なくともこの3機種の中では異なる傾向を示すと言えそうです。
ひょっとするとこれ、カラーフィルタの特性に起因しているのかもしれません。Canonはどの機種でもRのLPFが緩やかなのに対しD750/K-5IIsはより鋭い系。これが傾向の差や前述のG関連の結果を産んだ…のかもしれないな~なんて思ったりも。まぁ本当に思っただけないんですけど、このフィルタ特性については前々からちょっと気になってたりします。
*参考
Canon EOS 5D Mark III : Measurements - DxOMark
Canon EOS M2 : Measurements - DxOMark
Pentax K-5 IIs : Measurements - DxOMark
Nikon D750 : Measurements - DxOMark
全体像で見るとこんな感じに。これだと露出の差異こそあれチャートと表紙の差異はあまり気にならないレベルになりました。
ただ、背景のグレーにはしっかり個性が出ているのが面白いですね~。とっても「らしい」のでわかる人ならすぐにどれがどの機種か言い当ててしまうことでしょう。
前回同様、CCPは万能ではなく完璧な結果を得られるわけではありません。ターゲットによってはASDよりむしろ悪化してしまっているところもあるわけですから、過信は禁物です。
しかし、手軽にこれだけの調整ができてしまうことは間違いなく大きなメリット。チャートが撮ってあるなら一度は試しておくと良いかも?
5. DNG Profile Editorは手動調整で更なる追い込みが可能
オートのCCPでダメならDNG Profile Editor(DNGPE)で追い込むしか。ということで今回もDNGPEの出番です。せっかくなのでまずはチャートを使った自動処理から見てみましょう。
*参考:Photoshop Playbook: How to Use the DNG Profile Editor to Adjust Color and Light - YouTube
D750に関しては前回よりも随分とマシな値にはなったものの、K-5IIsは大きくずれたBが改善した以外は悪化、そしてM2はほとんどのターゲットで悪化してしまいました。やはりCCP同様それなりに機種間の差異を縮めることはできてはいるものの、理想値との差異という面では微妙です。ある意味劣化版CCPみたいな感じになっちゃってますし、これなら素直に手動調整した方が良さそうですね。
チャートで見てもCCPよりは…まぁ撮って出しJPEGと比べれば揃ってるかな~って程度?
全体像から受ける印象も同様。ただCCPよりもM2の肌のトーンの特徴がより目立つでしょうか?ただ、正直このまま使う気になるかとなると…
という訳で、ここからはちまちま手動調整したものを見てみます。
おお! 素晴らしい数値! ようやく全てのターゲットでASDより優秀な値を弾き出すことが! 何度も何度も調整頑張った甲斐がありました…
しかしM2とD750のBとCは互いに引っ張り合うような状況になってしまって補正し切れなかったり、K-5IIsのRとCは微調整し切れず1の差異を消すことができませんでした。中々難しいですDNGPEは。
んん~チャートで見てもいい感じ! 自動処理よりも明らかにしっかりした色になってますし、CCPのように彩度上がりすぎのギトギト感や色相回り過ぎ感もありません。
全体像。どうでしょうここまでくれば~って言いたくなりますがやっぱりグレーでわかりますね。とは言えACRの現像では今まででベストな仕上がりなのは間違いありません。
各カメラの撮って出しJPEGとの比較。左がJPEGで右がDNGPEのカスタムプロファイル。sRGB化で結構色が変わっちゃってる(特にCが顕著)のであくまで参考程度に。
元々優秀なM2やK-5IIsは割におとなしいものの、D750の変わりっぷりときたら…Rはホントダメですね~。Gまで結構変わってるし、ホントNikonの色再現はダメダメです。
という訳で、やはり自動処理だと微妙感はあるものの、手動で調整すれば素晴らしい結果が得られます。中々思い通りには行ってくれずかな~り苦労させられたりもするものの、やるだけの価値はあると思いますよ~。
6. Picture Style EditorはDNG Profile Editorよりも容易に追い込みが可能
他社なら思い通りの色に近付けたいならDNGPEで頑張りましょうで終わり。しかしCanonにはPicture Style Editor(PSE)というツールがあります。
*参考:キヤノン:ピクチャースタイル
これにはCanon版DNGPEと言えるような機能がある上、調整範囲に重複があると警告を発してくれたり範囲自体を自在に変更することも可能だったりと、ある意味DNGPEよりも多機能なツール。これで追い込んでみた場合はどうなるのか。
ご覧の通り、完璧です。明らかにDNGPEよりも調整が楽で、いとも簡単に持っていきたい数値に振れちゃいました。あまりの手軽さに思わず笑っちゃったくらい。
なぜこれほど思い通りの数値に持っていくことができるのか。それは範囲を自在に指定できるためです。
DNGPEではBとCがプラスとマイナス反対側にずれると互いに綱引き状態になり、両方のずれを取り切ることができませんでした(より使いこなせばあるいは…)。しかしPSEでは調整範囲を移動させてやることでそれぞれ独立した調整が可能となるため、互いの影響を容易に抑えられるのです。そのためDNGPEでは何度調整しても取り切れなかったBとCのずれも簡単に取ることができてしまいました。
チャートで見てもこの通り。
ちなみに起動時に基本調整→六軸色調整(Six Color-Axes)→特定色調整(Specific Colors)の順で調整すること推奨すると表示されるものの、今回試した限りは特定色のみで行った方がより目視に近い結果となりました。元々優秀なFFをベースにしたためかもしれません。
ぱっと見で差異が目に付いたのがこのP(purple)。DLの値も特定色調整の方が良好です。
全体像。
ここまでくるとそろそろACRとDPPの見分けもつかないレベルになりつつありますね。露出まで合わせたらより大きなサイズでも厳しそう。
こんな感じでPSEは素晴らしいツールです。使いこなせば出せない色はないというレベルで追い込むことができそうです。
ただ調整を行う際に留意すべき点は、カメラの撮って出しJPEGとDPPの差異です。それを加味せずDPPで確認を行いそれをそのままカメラに登録してしまった場合、出てくるJPEGは意図したものとは異なってしまいます。必ず事前にそのカメラの撮って出しJPEGとDPPとの差異を確認し、ベースに使うPS毎にその差異を加味した調整を行う必要があるでしょう。
と言っても、所詮撮って出しJPEGでそこまでシビアにやってもしゃーないかもですけどね。まぁせっかくやるならってことで。
7. EOS M2の色再現性に関する結論
デフォルトPSでも優秀な上にPSEでDNGPEを超えるレベルでの調整まで可能。まさにExcellent!! 素晴らしい!!
過去の測定値一覧
今まで難しかった完璧な理想値を容易に再現できたことに驚きです。
NikonのPCを始めどのメーカーにも色調補正はあり、程度の差はあれユーザーの好みで調整が可能です。
しかしここまでの自由度があるメーカーは私の知る限りCanonだけ。DNGPEで似たような調整は可能なものの、これはあくまで有料ソフトのオプションであって、Adobeユーザーだけしか使えません。しかも調整のしやすさについてはPSEの方が上ですし、使えるのもあくまでRAW現像時。作成したカスタムPSをカメラに登録し、撮って出しJPEGにも反映できるCanonとはできることの幅が段違いです。
元のPS自体が優秀な上にPSEで自在に調整が可能で、それを再びカメラに登録することもDPPで現像時に使うこともできる。インプット(撮影)からアウトプット(画像ファイル作成)までのトータルソリューション。こと色再現にかけてはM2、というかCanonを超えるメーカーは無いのでは? NikonのPCなど名前が似ているだけで月とスッポン。PhotoshopとWindowsアクセサリのペイントくらいの差がありますね。
もちろんカメラの価値は色再現だけではありません。このM2も他の要素では様々な問題点が存在し、色に関してもAWBで撮ればFFでも不自然に赤味が強く出る、いわゆるCanonのマゼンタ被り的なものが見受けられることもありました。決して完璧なカメラなどではありません。
ですが、前述の通り色再現性の面については極めて優秀であり、他社の追随を許さない存在だと言えそうです。
いや~、凄い結果になりましたね。一応やっとこかくらいで始めたら、検証してるこっちがびっくりしちゃうくらいの状態でした。Canonにこだわるプロがいるとの話も納得です。色管理を重視するなら間違いなくNikonよりCanonでしょう。
よく他社のカメラじゃ○○の色は再現できない~的な意見を見かけますけど、このPSEの調整範囲なら理論上不可能は無いんじゃないでしょうか? もちろんそこまで追い込めるかは別問題ではあるものの、どの道前述のカラーフィルタやセンサー、処理エンジンや味付けの差異で機種が違えば同一メーカーでも色味は全く同じじゃないですからね~。○○風までなら十分に可能と考えるのが妥当でしょう。往年の名フィルムとかでもチャートを撮ったデータを元に追い込めばかなりいい線行けそうです。
現像時だけならともかくカメラの撮って出しJPEGにも反映できるというのが凄い。これは相当面白いツールですね。Canonを使っていてどうも思ったような色にならないとお悩みなら、チャレンジしてみる価値大いにありですよ。
参考までに、今回の検証で使用したカスタムPSやDNG Profileを公開しておきます。以下の記事からどうぞ。
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